はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と五
「ホカニ イイモノガ ナクテ」
買いたくなんてなかったのだけれど、他にいいものがなくて、致し方なく、などという買い物ほど、悲しい買い物はないよな、とAくん。
「じゃ、買わない、という選択肢はダメなのですか」、と私。
「僕は、買わない。買わないようにしたい。でも、どうしても買わないと、と、思っている、思い込んでいる者たちにとって、その選択肢はダメなのだろうな」
買いたくないのに買わなきゃならない、か~。
たしかに、悲しい買い物だな。
「ごく身近なところで、たとえば、個包装」
「こ、個包装、ですか」
「そう、個包装。アレって、その中身よりもプラスチックゴミの方が多いだろ。にもかかわらず、ナニかと都合がいい、便利だ、ということで、おもわず買ってしまう」
あ~、たしかに、買ってしまう。
「たとえば、そう易々と価格を上げるわけにはいかないものだから、中身を減量。しかし、中身を減らしてしまっては、もはや、プラスチックゴミを買っているようなものなのに、一応、とりあえず価格が安い、買い易い、ということで、おもわず買ってしまう」
あ~、ソレも、買ってしまうことがある。
「ソコに、トンでもなく大きな問題が潜んでいるというのに、便利、使い勝手がいい、安い、買い易い、みたいなコトだけで、おもわず買ってしまう。コレって、ひょっとしたら、悲しいだけでは済まない、かもな」
あっ。
「その、『他にいいものがなくて』とよく似たヤツ、選挙の時にも、よく、耳にしますよね」
「せ、選挙の時?」
「ほら、その政策は好ましいと思わないが、他よりはマシそうだし、とか、いいコトもしてくれているみたいだし、とか、他に投票したいと思う政党も立候補者もいなさそうだし、とか、が、選択の理由だと、アンケートかナンかで出ていたりするじゃないですか」
「あ、あ~、ソレ、するする、するよな~」
Aくんが危惧するように、「他にいいものがなくて」がもたらす危険性、闇、たしかに、悲しいだけでは済まないかもしれない。(つづく)