はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と十七
「キオクモ キロクモ ハートモ」
「ある、あるアベックの会話」
「ア、アベック、ですか」
「あ~。アベックでなくてカップルだったな。フランス語だぜ~、絶対、アベックのほうがオシャレだと思うがな~。ま、いいや。とにかく、そのカップルの会話。・・・ほら、アソコのちょっと高級そうなフレンチレストラン、昔、二人で行ったよね。アソコのフレンチ?、二人で?、記憶にないな~。え~、一緒に行ったわよ。行ってないって。ほら、ソコのイケメンのシェフと、澄ました顔して雑談したりしてたじゃない。そんなのしてないよ、そもそも行ってないんだから。その時、あなた、一銭も持ってなくて、私が全額払ったんだから。いや、それは違う。僕が払った。それは覚えている、間違いない。そ、それは覚えている、間違いない、って、なによそれ、なんなのよ」
なによそれ、なんなのよ、って、なに?
ショートコント?
フレンチジョーク?
おそらく、ナニか深い意味やら意図やらがあるオープニングトーク、マクラ、クスグリなのだろうけれど、到底、私ごときに理解などできるはずもなく、ココはサラリと聞き流してしまおうと思っていたら、Aくん、間髪(カンハツ)を入れず、あるコトを問うてくる。
「ナンらかの記憶障がいか健忘症か、このところプチ注目を集めている、一部の政治家に絡んだソレ関連のワードがあるんだけど、わかるかい?」
そう問うてくるAくんのその表情、なぜか、まるで悪戯(イタズラ)っ子のようで、妙に不気味にニタニタとしているように見える。
とりあえず、自信も確信ももてないまま、「昔から、記憶にございません、は、有名ですけど」、と、答えてはみる。
すると、その悪戯っ子感を更に二割ほど増して、Aくん、「ソコに、政治関係者として、あるまじき事務処理能力の欠落というヤツまでプラスしちゃってさ~」、・・・。
「プラスしちゃって?」
「なんと、『記憶も記録もございません』ときたもんだ。コレって、結構な破壊力だろ。そうは思わないかい?」
記憶も、記録も、ございません、か~。
「記録には残らないけれど記憶に残る選手、の、ダークサイド版という感じですね」
「ダークサイド版、ね~。上手いこと言うな~、面白い、面白いよ、ソレ。たしかに、まさにダークサイド版。なんとなく似てはいるけど、全くもって真逆のベツモノだからな」
なんだか誉められているような気がして、ちょっと嬉しくなる。
嬉しくなったついでに、調子に乗って喋り続けてしまう、私。
「政治家ですよね」
「そう、政治家だ」
「じゃ、おそらく、記憶障がいでも、健忘症でも、事務処理能力の欠落でもなくて」
「ん?」
「ハートの問題だと」
「ハートの問題?」
「つまり、魂、性根(ショウネ)、が、腐ってしまっている、と」
「腐ってしまっている?」
「そうです。実際に、そういった障がいや疾病などで悩み苦しんでいるピーポーたちを、完全にバカにした、大ウソつき!。だということです」
そう喋るシリから、調子に乗って喋り続けてしまったコトへの後悔と、性根が腐ってしまっている政治家たちへの憤りと、が、入り乱れて顔中が熱い。
するとAくん、「先ほどみたいなアベック、いや、カップルの、話であるなら、まだ、それなりに微笑ましく感じられるかもしれないけれど、ソレが、大いなる責任がある政治家のコトとなると、そうはいかない。記憶も記録も、ハートもございません、みたいな、そんな情けない政治家には、やっぱり、早々にお引き取り願わないと、いけないだろうな」、と。
(つづく)