ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.609

はしご酒(Aくんのアトリエ) その五十

「タマシイ ト イノチ ト カゾク ト センソウ ト ケンリョク ト ゲイジュツ ト」④

 「限りなく怪しい鉄砲の弾(タマ)系の話は別にして、彼の言葉の一つ一つは、不思議に熱く、力強く感じられたんだよな~。喋り口調は、穏やかで緩やかで、決して熱弁というわけじゃないんだけどね」

 なんとはなしに、わかるような気がする。そうした真実とは真逆の、得体の知れない負のエナジーしか宿っていないような「嘘」から伝わってくる体感温度は、不思議に冷たく、ひ弱に感じられたりするからである。

 「魂、命、家族、戦争、権力、芸術、・・・、彼の口からポトリポトリとこぼれ落ちる、そうした言葉の一つ一つに、なにやら、いいとか、わるいとか、を、軽く飛び越えたものを感じたわけだ、そのときの僕は」

 巨大な渦のようなものに翻弄されながらも、ナニがナンでも生き抜いてきた、というそのコトに対して、我々ごときが安易に、ドウのコウのと言うべきではない、と、私も思う。

 「一度、壊れ、消えてしまった魂を、どうにかして呼び戻し、蘇生し、もう一度、筆を執ることができるまでに、とてつもないほどの時間がかかったみたいなんだけど、・・・、良かった、ホントに良かった」

 無性に会いたくなってくる。

 おそらくは、もう、とうの昔に極楽浄土に旅立たれているであろう、その「ものすごいお年寄り」が、ナニものであったのか、などということは、この際どうでもいい。

 戦争というトンでもなく愚かな所業の中で、心を弄(モテアソ)ばれ、魂を掻き乱され、つつも、家族のために生き抜いた、ある、ひとりの絵描きの、その姿が、生きざまが、底抜けに尊いのである。

 そして、妙に心地よい嵐かナニかが過ぎ去ったあとと同じぐらいの静けさの中で、ユルリとその幕は下ろされる。(つづく)