ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.842

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と七十三

「ノーウーマンノークライ ナ バリアイランド!」①

 「コレ、いいだろ」と言いながら、ニコニコ顔で舞い戻ってきた、Aくん。その手には、ナニやら黒くて細長い、その、「コレ」、が、ある。

 「若かりし頃~、海を~越えて、いろいろな~トコロに、お邪魔させてもらったが、やっぱり、シチリア。コレが不動のダントツ。トにもカクにもメシが美味い。いいワインが安い。もちろん、人もいい。のだけれど、そんなシチリアに肉薄する夢のアイランドが、もう一つあったわけだ」、と、懐かしそうに振り返り始めた、Aくん。

 「それが、バリ、バリ島だ」

 バリ?、あ、あ~、バリ島。

 「バリ島。私も、一度は行ってみたい、です」

 「それはいい。一度、是非、行ってみてよ。ただ」

 ん?

 「ただ、どの国も同じだと思うけれど、おそらく、数十年前に僕がお邪魔させてもらった、あの頃のバリ島では、もはや、ないと思う」

 ん~。

 ご多分に漏れず、目先の「インバウンドマネー」という小賢(コザカ)しい悪魔の誘惑に丸め込まれて、開発の嵐が、夢のアイランド「バリ島」にも吹き荒れてしまった、ということなのだろうか。 

 「いや、それはそれで、それもまたバリ、バリ島なんだと思う。コチラ側の都合のいいように、ナニもカも昔のままでいてほしい、などと思うのもまた、傲慢というものだ」

 なるほど。

 「今でも相変わらず、毎日のように、島のどこかでお祭りをやっているようだしね。大丈夫、バリ島の神さまたちは、いたって元気。そんな元気な神さまたちとともに、島の人たちの生活も、きっと、ナニも変わっちゃいないのだろうと思う。是非、是非、バリ島の神さまたちに会いに行ってみてよ。たぶん、ナニかを見つけることができると思うから」

 バリ島。よほど居心地が良かったのだろう。

 私たちがナンとなく抱いているリゾートアイランドのイメージ以上のナニかが、熱く、熱く、コチラまで伝わってくる。(つづく)