はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と十四
「ジョーカー!」②
「もう一方のジョーカー?」
「そうです、アホがアホ呼ぶアホアホワールドに棲む、あの、シン・ジョーカーのことです」
ほんの少し膨張したように見えたAくんの瞳は、すぐさまオリジナルサイズに落ち着く。
「あ~、あの、浄化することを天職だと思っているアイツね」
浄化?、シン・ジョーカーは、浄化?
「それなりに正義感も責任感も強いし、仕事に取り組む姿勢も真面目なんだけれど」
ん?
「ナンでもカンでも浄化しようとしてしまうから、どうしても」
どうしても?
「純粋なる浄化の意味をもつピュリフィケイション(purification )だけでは飽き足らず、ズルズルと、似て非なるロンダリング(laundering )の領域まで踏み込み、手を下してしまう」
「たとえば、マネーロンダリング。出どころが極めて怪しいお金を、いったんロンダリングボックスの中に放り込んで、上手い具合に洗浄してしまう、というこの手口は、本来、ピュリフィケイションが目指すモノと、根本的に異なる」
んん?
「浄化と洗浄との違いを、いま一つ理解できないまま、その垣根をヒラリと越えてしまいがちなシン・ジョーカーが、たとえば、政治の世界あたりでのニーズが高まって、忙しくなり始めたとしたら、ソイツは、かなり厄介だな」
ん、ん~・・・なるほど。
阿漕(アコギ)なマネにウツツを抜かし続けてきたシモジモじゃないエライ人たちが、シン・ジョーカーにロンダリングしてもらうことで、上手い具合にその場を乗り切ろうなどと画策しているとしたら、もう、世も末、としか思えない。(つづく)
追記
走行中のある車内でトンでもない事件が起こる。ジョーカーに憧れた青年によるジョーカーを真似た犯行だという。国は、こういったことが再び起こらないようにと、より監視体制を強化する、みたいなコトに躍起だ。おそらく、とりあえずナニかをやらねば、ということなのだろう。しかしながら、本当に大切なコトは、なぜ、彼の中に狂気が生まれてしまったのか、の、その、捨て置けない闇の部分に、目を向け、掘り下げ、明らかにしていくコトのはずだ。そのコトを怠れば、同じような狂気は、この、ナニやら歪みまくりの現代社会のそこかしこで、これからも、次から次に、生まれ続けていくに違いない。