ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.689

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と三十

ゼニガタヘイジ ト イシハラユウジロウ」

 「銭形平次、と、石原裕次郎、との違いって、ナンだと思う?」

 えっ!?

 あまりにも唐突で珍妙な質問に言葉を失っていると、おもむろに立ち向かったAくん、なにやら、古めかしくて勇ましい、そんなマーチ調の歌を押さえ気味ながらも声高らかに歌い始める。

 

 ♪お~と~こだった~ら~ ひとつにか~け~る~ か~け~てえも~つれ~てな~ぞをっとっく~ だれがよんだかっだれがよんだかっぜにがたへえいじ~い~い~い

 

 必要以上に回しに回したコプシに、吹き出してしまいそうになる。

 「な、な、なんですか、それ」

 「銭形平次だよ、銭形平次。御三家のひとり、舟木一夫の代表曲!」

 「だ、代表曲なんですか」

 「少なくとも僕はそう思っている。どうだい、いい曲だろ」

 「は、はい。で、その曲が、先ほどの問い掛けのヒントかナンかなのですか」

 するとAくん、ナニを思ったのか、先ほどとはガラリと曲調が異なるムード歌謡を、惜しみなく妖しげに歌い始める。

 

 ♪しのびあうこいを~つつむよ~ぎりよ~ しって~いる~の~か~ ふたり~のな~か~を~ はれてあ~え~る~そのひ~ま~で~ かくして~おくれ~よぎり~よぎり~ ぼくら~はい~つ~も~ そっというのさ~ よぎり~よ~こんやも~ ああり~が~あ~あ~あ~と~お~お~お~

 

 先ほどのマーチ調を軽く上回るコブシの回され具合に、完全に吹き出してしまう。とっさに口に手を当てたので被害は最小限であったものの、掌(テノヒラ)には、細かいいぶりがっこが、踊るように点在している。

 「な、な、なんですか、それ」

 「コレだよ、コレ。銭形平次石原裕次郎との違い」

 ナンのことやらサッパリ見当すらつかない。

 「銭形平次、平次、へいじ、つまり、平時、には、実に開放的にオープンに、とってもアグレッシプで勇ましいのに、石原裕次郎裕次郎、ゆうじ、ろう、つまり、有事、には、突然、コソコソと、コソコソと怪しく密談の花盛り、隠して隠して隠しまくって夜霧の中に消えていく」

 うわっ。

 無実の銭形平次石原裕次郎には申し訳なくなるぐらいの、Aくん得意の強引さではあるけれど、全くもって思いも寄らなかった目からウロコのその指摘に、清き一票を投じたい。(つづく)