ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.629

はしご酒(Aくんのアトリエ) その七十

「エークン ユメヲミル ユメヲカタル」⑧

 「命懸けで一戦交えることも覚悟した、戦闘モードのAくんのその前に、突如現れた驚くほど普通のヒゲ男が、ごく普通にフランス語で語り掛けてくる。クォ~ンニチハ~、ドゥアイジォ~ブデスカ~。ほとんど日本語のようなフランス語なので充分に聞き取れる。手には筆とパレット。何者だ、この普通のヒゲ男は。すると、元アリタリア航空の老パイロット、満面の笑みを浮かべて、チャ~オ、ゴ~ギャ~ン、オヒサシブリジャノ~、ブオッホ。一瞬、んっ?、という表情を見せたそのヒゲ男、3倍ほどに大きく両目を見開いて、ワ~オッ、マジッシュカ~、ヴォ~ンジュ~。激しく抱擁し合う二人の後期高齢者。そんな彼らを、ただ呆然と眺めることしかできずに立ち尽くす、Aくん・・・」

 よしっ、よしっ。

 期待感が膨らみ過ぎたあたりを見計らって、一旦ドスンと落としつつの次へのあらたなる展開、という、下げて上げるV字回復型手法だ。やるよね~、さすが、Aくんの夢である。そんじょそこらの夢とはワケが違う。

 「ココで、目が覚めたわけ。ココから先が気になって気になって、慌てて二度寝してみたのだけれど、パッチリと目が覚めてしまって・・・、どうなると思う?、この後期高齢者トリオ」

 よしっ、よし、よ、・・・え、えっ、ええっ!?

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 「どこまでもアクティブシニアな後期高齢者トリオで、いついつまでも仲良く暮らされたんじゃないんですか、その南海の島、多分、タヒチで。と、思いますけどね」、と、どうにか気を取り直した私は、少々「いけず」な調子で答える。もちろん言わずもがな私の中のワクワク感は、あまりに唐突なAくんの夢の幕引きによって、いつのまにかシュンッと蒸発して跡形もなく消え失せていた。

 「あっ、そうそう」

 「まだナニかあるのですか」

 「よくよく思い出してみると、登場人物のその顔が、皆、僕の顔だったんだよな~」 

 条件反射のように、あの、キュートな娘さんの顔の上にAくんの顔を貼り付けてみる。

 Aくんには申し訳ないが、残念な幕引きに気持ち悪さまで加わって、おもわず口直しの一杯をグビリとやる。(つづく)