はしご酒(4軒目) その百と百と七十一
「マケマケヤマ ナ カチカチヤマ」②
「かちかちやま、この昔話は、いったいナニを僕たちに語り伝えようとしているのか」、とAくん。
Aくんもまた、この、サイコでバイオレンスなスリラー昔話に、ナニか摩訶不思議なものを感じているのだろう。
「個人名義のグリム童話と違って、コレって、一般ピーポーたちによる伝承なワケでしょ。その時代時代の価値観とか善悪とか正義とか、といったものの映し鏡のような気がします」、と私。
「映し鏡か。その時代時代が生み落としたもの、ん~、・・・」
「とにかく、命、というものを、かなり乱暴に、軽く、扱っていますよね」
「口が悪い、というだけで、そのタヌキを捕まえて、婆さんや、今夜はタヌキ汁にしよう、だからな~」
「しかも、タヌキはタヌキで、お婆さんを騙して殺してしまうし」
「一方、ウサギはウサギで、いったん、タヌキに信用させて、油断させて、おいてからのダメ押しの一撃、という、2段階仕立ての殺害計画。この手口は、完璧にプロだよな」
「そして、騙されたお婆さんにも、この殺人事件を引き起こした責任の一端はあるのでは、という、セカンドレイプ的なテイストの中傷が起こったりもしたかもしれない」
二人して、グイグイと、掘り下げれば掘り下げるほど、この『かちかちやま』の闇が、浮き彫りになる。
「結局、この昔話の中には、勝者など、誰一人として、いない」
「つまり、かちかちやま、は、まけまけやま、だった」
「そして、そのことは、本当の勝者など、いないのかもしれない、この現代社会の、映し鏡でもあるということか」
(つづく)