はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と六十
「リテラシー(literacy)が問われる時代なのかもな」
初めて耳にする言葉だ。
「リ、リテラシー、ですか」
「ナニごとにも惑わされずに、的確に、正確に、読み取る力、理解する力、理解できる力」
なるほど、その力を、リテラシーというのか。
「でも、そのハードル、かなり高そうですね」
「そう、決して低くはない。けれど、とくに、巨大なナニかが大きく変わろうとしているような時には、どれほどハードルが高くても、そのハードルは飛び越えておく必要がある。で、ないと、世の中がトンでもない方向に進んでいこうとしていても、おそらく気付けないと思う」
気付けない、か~。
Aくんの言う通りだと思う。ただ、私自身も含めて、ナニごとにも惑わされずに、的確に正確に理解できる力などというモノが、そう易々と獲得できるとは、どうしても、到底思えないのである。
「そのリテラシーなるものが、ナニよりもダレよりもハイレベルでなければならないはずのメディアでさえ、ナニかと頓珍漢(トンチンカン)に、ブレてみたり偏ってみたりしがちなこの今、この社会、に、おいて、私たち一般ピーポーがソレを獲得することなど、至難の技なのではないですか」
おそらく、言い訳と受け取られるだろうけれど、思い切って、そう、自分の思いをぶつけてみる。
するとAくん、ほんの少し「ん~」と唸ったそのあと、ユルリと、ユルリと「・・・そりゃそうだな」と口を開く。
えっ。
「至難の技でないのなら、誰でもが簡単に獲得できるモノであるのなら、これほどまでに、この国やらこの星やらのそこかしこで、分断が、衝突が、生まれるはずなどないだろうからな~」
(つづく)