ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.447

はしご酒(4軒目) その八十八

「タイガンノカジ ノ ニオイ ト ネツ」②

 「戦争の残り香、みたいなもの、ナニか、感じたことありますか」、と、なにやら女将さんと、楽しげに話しながらチビチビとやっているAくんに、尋ねてみる。

 「えっ、戦争、の、残り香?」

 さすがに、驚いた様子のAくん。

 そう尋ねたそのあとで、女将さんは?、というような、おそらく、そんな目をして、ソチラに顔を向けたからだろうか、右手を口元の前で小さく左右に振っている。そんな可愛い仕草の女将さんを横目に見ながら、「そういえば」、と、話を切り出すAくん。

 「終戦のあと、結構、年数が経っていたと思うんだけれど、兄貴が、近くの児童公園で、軍刀を振り回して遊んでいたな~」

 「ぐ、軍刀を、ですか」

 「そう、軍刀。なぜか、押し入れに放り込んであった」

 「そんなの振り回して、危なくないんですか」

 「間違いなく危ないとは思うけれど、兄貴の古いアルバムに、そのときの勇姿が収められたりしている、ということは、親も喜んで、カメラをパチパチやっていたってことだろうし」

 なんて、いい意味で適当で、いい加減で、長閑(ノドカ)な時代なんだろう。

 でも、考えてみれば、市民の、一般ピーポーの、普段の生活なんてものは、今も昔も、そういうものであるような気もする。そして、そうした長閑な生活を、力尽くで奪い取っていくものの一つが、「戦争」であるのだろう。

 Aくんが、長閑な「兄貴と軍刀とアルバムの写真」物語を話し終えたところで、私の「父親と空襲と対岸の火事」物語を披露する。

 するとAくん、「まさに、文字通り、対岸の火事だな」、と。

 ひょっとすると、Aくんが、この数十年間の謎を、解明してくれるかもしれない。そんな予感と、そして期待が、ブワンと膨らむ。(つづく)