ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.346

はしご酒(4軒目) その九十七

テロワール!」③

 プチプチとした生タイプの濁りが、真っ黒な楽茶碗に注がれる。その様子を見て、「マッコリのソーダ割りみたいだな」、とAくん。

 それもこれも女将さんの意図するものなのか、その色味と楽茶碗とのコラボレーションは、たしかに、マッコリのソーダ割りに、見えなくもない。

 わざわざ、抹茶をいただくような作法で、ソレを美味しそうに口に含んだAくんは、指でソッと、その縁に付いた真っ赤な口紅を拭う。

 口紅、付いてないし、そもそも、そんなもの、塗ってもいないし、などと、突っ込んでみたくもなったのだけれど、その仕草があまりにも完璧で、一瞬、不覚にも見惚れてしまう。

 「抹茶畑からマッコリな韓国を経由してプチプチとした生タイプの濁りのブドウ畑に降り立つ、みたいな、不思議な感じ。でも、若々しくてフレッシュ、でありながら、味わい深さもあって、いいね、これ」

 なんのことやらサッパリだけれど、その不思議な感じ、なんとなくコチラまで伝わってくるから、不思議だ。

 「国産ブドウではあるものの、地元のブドウではないらしくて、できれば、最初から最後まで地元のモノで、という考えは、もっておられるみたい」、と女将さん。

 「ナニかを感じるのだろうな。そのナニかを感じるから、最初から最後まで地元のモノで、と思うのだろう」、とAくん。

 そのナニかを感じる、ということもまた、テロワールの奥深さなのかもしれない、などと思いながら、Aくんのものよりは少し赤みを帯びたように見える私の楽茶碗に、静かに注がれるプチプチとした生タイプの濁りを、ユル~リと眺める。(つづく)