ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.446

はしご酒(4軒目) その百と八十七

「タイガンノカジ ノ ニオイ ト ネツ」①

 寡黙で、自分からは滅多に、話などしようとしなかった父親が、私がまだ幼かったある日、珍しく、あの戦争について、語ってくれたことがある。結局、父親は、戦地に赴くことはなかったのだけれど、その語りから、当時の戦争の臭いは、充分に感じ取ることができた。

 とくに、大規模空襲による川向こうの大火の話は、いまでもハッキリと覚えている。

 最初のうちは、花火見物気分で、遥か遠くのその大火を、呑気に河原に座って眺めていたらしく、実際、信じられないほど真っ赤に染まった夜空は、とても美しかったという。

 ところが、かなりの幅があった、その一級河川を、対岸の大火の臭いや熱が、火の粉とともに飛び越えてきたりしたものだから、怖くなった父親は、大慌てで逃げ帰ったようだ。が、残念ながら、父親の住む町も、あちらこちら随分と、燃えてしまったようである。

 普段、ほとんど喋ることなどなかった父親が、あのとき、なぜ、突然、あの話をしてくれたのだろう。このこともまた、数十年間、謎のままだ。(つづく)