はしご酒(4軒目) その九十六
「テロワール!」②
随分とエラそうに宣ってはみたものの、実際のところ、テロワールのことなど、ワイン用のブドウ畑の土を意味する、らしい、フランス語、ということぐらいしか知らない私は、それゆえに、Aくんの次なる一手を、なんとなくドキドキワクワクしながら待っていたりする。
「テロワールが大事なんだと思う」
いよいよ、ついに、Aくん特製のテロワール噺の幕が上がる。もちろん、ドキドキワクワクも膨らむ。
ソコにある、ソコでつくる、ソコでなければならない理由が必ずあり、ソレこそがテロワールなのだと、幕開けから、なかなか熱い。
「ワインに限らず、ということですか」、と、尋ねてみる。
「そう、ワインに限らず、食べ物にも限らず、全てのモノづくり」
ワイン用の畑の土、という意味どころか、ひょっとすると、地形やら気候やら水やら空気やら、も、丸ごと全てひっくるめたモノが、Aくんが宣うところのテロワールなのかもしれない。
「人、もね。ソコのその風土が育んだ、ソコに生きる人たちの気質、もまた、テロワールだと思っている」
なるほど、と、おもわず納得してしまう。
「そうした、ソコで、そのモノが生まれた、その必然性を、破壊せしめたモノが、理不尽な開発であったり、その方向性も意味合いもを間違えてしまった物流であったり、掟破りの価格破壊であったり、するのではないだろうか、って、思えてならないんだな、僕は」
あらためて、危機的な面さえもチラつくテロワールの奥深さを、この国の、この星の、そこかしこで、辛うじて、どうにかこうにか光輝くモノづくりと重ね合わせながら、もう一度、腰を据えてジックリと考えてみたくなる。(つづく)