ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.240

はしご酒(3軒目) その六十九

「デモ ト シカ ト トキドキ オンシ」⑤

 とにかく、あの手この手と工夫を凝らし、励まして、励まして、誉めて、誉めて、そして、提出したプリントやらテストの解答用紙やらには、必ず、あたたかい一言を添える、そんな感じの、優しくて、熱心な、若い女性の先生で、あったらしい。

 「初めて習う教科でしょ、なんとなく不安だったんだけれど、いっぺんに、その先生も英語も大好きになって、おかげさまで、英語とは、切っても切れない長い付き合いになったわ」

 「いまでも、その先生と会われたりされるんですか?」

 「それが、その一年間だけだったのよね、非常勤講師かなんかだったのかな、パッと私の前から消えちゃった。でも、お勉強は、最初が肝心、感謝してるわ」

 「なるほど、充分に恩師ですね、その幻の先生」

 おそらく、その幻の若き先生は、子どもたちに迷惑をかけまいと、一人たりとも英語嫌いにしまいと、一生懸命だったのだろうな、などと、ジンワリと独りごちる。

 そのとき、しばらく軽く唸っていたZ’さんが、ようやく口を開く。

 「そんなつもりで学校の先生をしているつもりなんて、全くないけれど、万が一にも、教え子に、恩師なんて思われたら、照れはするけれども、ここだけの話、やっぱり嬉しいし、それこそが、先生冥利に尽きる、ということなんじゃ、ないのかな~」

 いま一度(ヒトタビ)口に含んだエル・ディアブロの不屈のチカラも借りて、重たくなりかけた私の心が、ほんの少し軽くなったような、そんな気がした。(つづく)