ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.206

はしご酒(3軒目) その三十五

「ウワキゲンバ ニ ソウグウ!?」

 脱ストレスに向けての、おそらく口に出してなんて絶対に言えないであろう、そんな、人知れず、な、宣言。を、私は、「ステルス宣言」と呼んでいる。たしかに、ストレスとステルス、似てなくもない。が、もちろん、関係は、全くない。関係はないが、このネーミング、結構、気に入っている。などと、ひとりバカみたいに悦に入っていると、背後から、どこかで聞いたことがあるような、ないような、そんな声が、突然、したものだから、驚いてしまう。

 「浮気現場に遭遇!」

 着物姿の男性が、少し疲れぎみではあるものの、ステキな笑顔で、ソコに立っていた。

 すぐさまZさんは、呆れた表情を浮かべながら、ドコかで見たことがあるような、ないような、そんな、その男性に、「つまんないこと言う前に、まず、待たせてごめんなさい、でしょ」、と、いつになく語気を強める。

 んん!?

 浮気現場に遭遇?

 誰と誰が?

 Zさんと私が?

 えっ、え~、おいおいおいおい、などと、おもわず、しなくていい動揺をしてしまった私であったのだけれど、その男性にピントが合った途端、幸い、すぐさまその動揺は解消された。

 そう、彼はZさんのご主人。そして、私の知人でもある。

 とはいっても、年に数回、お酒を呑み交わす程度で、ご多分にもれず、彼のことも、あまりよく知らない。でも、Zさんと同様、とてもいい人。とてもいいご主人。だということぐらいは、辛うじて知っている。ま、ソレだけで充分なのだが。

 そんな私に、彼は、「ちょっとだけ、僕も、お邪魔させてもらおうかな~」と。もちろん、私は、「どうぞ、どうぞ」と今まで座っていたZさんの隣の席を譲ろうとする。

 すると彼は、「いやいやいやいや、お気遣いは無用」と、空いていた隣の席に腰を下ろした。

 結局、私は、このステキすぎる「着物な二人」に挟まれる格好で、あともう少しの間、程よい緊張感とともに、美味い酒を呑むことに相成ったのである。(つづく)