ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1021

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と五十二

「マッタン ハ ミンナ ガンバッテイル」

 おそらく、強烈な圧力が其処彼処(ソコカシコ)から掛かっているのだろう。しかもその圧力、この社会に、この国に、この星に、危険な臭いやら危機感やらが増してくれば増してくるほど、よりパワーアップしたりするものだから、マジでタチが悪い。

 某国民営放送局の、偏り気味の情報の垂れ流しとしか思えないニュース番組を見るにつけ、いつも、そんなコトを思ったりする。如何せん、悲しいかな私には、ソコに、ナニゴトにもビクともしない強靭な信念も、真っ当な正義感も、どうしても感じられないのである。 

 しかし、それでも、その末端で番組づくりをするピーポーたちは、そうした圧力を掻い潜るように、どうにかして正真正銘の真実を、正義を、愛を、幸せを、平和を、そして、そうしたモノたちの尊さを、番組内に込めたいと孤軍奮闘しているように思える。

 何度か言及しているが、そういう意味で、それゆえ、私は、あの局の、一部のドラマやドキュメンタリー番組が好きなのである。

 「テレビ・メディア業界の最後の砦だと思いたい某国民営放送局ですけど、政治関連は、苦手なように見えてしまいますよね」

 「トンでもなく重たい闇のようなナニかがのし掛かっているからなのだろうけれど、それにしても、とくに、政府に対しては、尻込みしている感、メチャクチャ漂わしているよな~」

 尻込みしている感、か~。

 「たとえば、この国が、歪んだ正義や愛の名の下に戦争に突き進もうとした時、でさえも、その、尻込みしている感、漂わしまくるつもりなのでしょうか」

 「ん~・・・。ひょっとしたら、尻込み感どころか、政府の広報部みたいな顔をして、『欲しがりません、勝つまでは』などと声高らかに宣ったりするのかもな」

 うわ~・・・。

 で、でも、それでも私は、やっぱり、やっぱり期待してしまう。

 不透明感満載で就任した某会長にはナンの期待ももてないが、末端の、とくにドキュメンタリー番組の制作現場の、その不屈の番組づくり魂には、どうしても、どうしても期待してしまうのである。

 きっと、きっと、きっと末端は、みんな、みんな、みんな頑張っている。

(つづく)

 

 

 

 

追記

 解決の糸口を見出だせないままズルズルと、やら、不気味なキナ臭さがヒタヒタと、やら、で、ナニかとダークにザワザワとしがちなこの年の暮れ。

 それでも、とにかく、ナニがナンでも良いお年を!

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1020

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と五十一

「シツゲン! シツゲン?」

 なかなか腹の虫が治まらないのか、Aくん、吐き捨てるように語り続ける。

 「歪んだままで、ドロドロで、真っ当なモノの考え方もできそうにない、ぐらい、心の中はトンでもなくダークであるにもかかわらず、上手い具合に当たり障りのない言葉を連ねる。というような、姑息でズルい、権力を握る、握りたがる、そんなシモジモじゃないエライ人たちが目立って、目立って仕方がない」

 ん~。

 いつもながらのヤヤこしさで、その真意を掴みきれないが、その感じ、わからなくはない。

 「当たり障りのない言葉を連ねることに神経を使うぐらいなら、失言を恐れず思い切って発言してみろよ、ということですか」

 「僕はね、失言には二種類あると思っている」

 二種類?

 「つまり、正真正銘の『純』失言と、ソレは失言じゃないだろ、としか思えない『濁』失言」

 「純失言と濁失言、ですか」

 「そう。たとえば前者の純失言。それほど間違ったコトを言っているわけではないのだけれど、心を痛めている、辛い思いをしている、そんなピーポーたちへの配慮を著しく欠いている、みたいな場合。が、僕が思う『失言』なのであって、その場合、躊躇なく、即時、謝罪し撤回しなければならない。もちろん、ソレで済むとは思わないが、その後の地道な努力次第では、充分に信頼回復もあり得る」

 なるほど。

 「むしろ問題なのは、後者の濁失言。僕の定義では、そう簡単にはコイツを、『失言』と認めるわけにはいかない」

 失言ではない、濁、失言、か~。 

 「調子に乗って、おもわず本音を吐いてしまう。場合によっては、意図的に吐く。どう考えてもソレらは失言ではないだろ。そうは思わないかい」

 よく、シモジモじゃないエライ人たちは、「真意が伝わらず誤解を招いたようなので」などというフレーズを用いるが、では、その真意とは、いったい、ナンだったのか。残念ながら、滅多に、ソコのところを丁寧に説明されている姿を見かけることはない。おそらく、Aくんは、その辺りのコトを指摘しているのだろう。

 「僕はね、思うわけよ。濁失言に関しては、ソレがその人の本音であり考え方であるわけだから、謝罪すべきではないと」

 えっ!?

 「なんと言われようと、自信をもって己の考えを貫けばいい」

 「さ、さすがにソレは、問題があるのではないですか」

 「申し訳ない、と、微塵も思っていないのに、ナゼ、謝罪するのか、撤回するのか。本当は謝りたくも撤回もしたくもないのなら、堂々としていればいい」

 ん~。

 Aくんはナニを言おうとしているのか。

 「そうした己の考えを包み隠さず全て、有権者に訴えればいいのだ。そして、選挙によってジャッジされればいい」

 不利になろうがなるまいが、正直に己の考えをオープンにして立候補すべき、ということか。

 「自分はこういう考えをもっているこういう人間なんだ、というコトを、さらけ出さないまま立候補することは、一種の『詐欺(サギ)』だとさえ、僕は思っている」

 つまり、むしろ問われるのは、一票を投じる側の意識であり「眼力」だということか。

(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1019

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と五十

「ツタナイ! ツタナイ?」

 「言葉ジリを捕らえて、その拙(ツタナ)い表現がドウのコウのという話をしたいわけではない」

 ん?

 あっ、あ~、あのコトだな。

 つ、た、な、い、表現。

 拙い。

 そう、拙い。

 そもそも「拙い」には、能力が低い、の、他に、「運が悪い」という意味があるらしい。

 おそらく、「拙い表現をしてしまって申し訳ない」などと宣う人は、ほとんど、この「運が悪い」という意味で、この「拙い」を使っているのだろう。つまり、私は運が悪かった、運が悪かっただけなのよ、と。それゆえ、後悔はしても反省など絶対にするはずがないし、考え方を改めることも、まず、間違いなくないだろう。

 「そんな、拙い表現の話なのではなくて、拙い頭の中の、拙いハートの内側の、その肝心要の話をしているのだ」

 拙い頭の中の?、拙いハートの、内側の?

 ん~、どういう意味なのだろう。

 「その場合の『拙い』は、どういう意味なのですか」

 「情けない」

 ん?

 「多種多様な状況に置かれた多種多様なピーポーたちのコトを真剣に思い、考える、考えなければならない立場の人間であるにもかかわらず、ソレができない、しようとも思わない、という、そんな、致命的な情けなさ。と、いう意味の、拙い、だな」

 情けない、という意味の、拙い、か~。

 情けない。

 情けない、頭の中。

 情けない、ハートの内側。

 「なんだか、ホントに、マジで、情けなくなってきますね」

 「怒りを通り越して、トンでもないぐらい絶望的に情けなくなってくるよな~」

 加えて、そのもう一方で、深く考えることなく、大人の事情やらで適当に任命し、ヤバくなってきたらきたで、深く考えることなく適当に、その場しのぎの更迭に。そんな、事情と都合だけの拙い人事もまた、悲しくなってくるほど、トンでもなく情けない。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1018

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と四十九

モンテスキュー モ クサバノカゲデ ナイテイル」

 「いよいよ」

 ん?

 「三権分立、ならぬ、三権ベッタリ。どころか、四権ベッタリ。の、その末路を見ることになりそうだな」

 んん?

 「よ、四権ベッタリ、ですか」

 「そう、四権ベッタリ。モンテスキューを嘲笑うかのように癒着する立法、行政、司法。に、政府にベッタリへばり付く中央銀行、日銀」

 あ、あ~。

 「分立していなければならないから分立しているのに、分立していては思い通りにコトが運ばない、と、有無を言わさず四権一丸となって突き進む、というその姿勢。その国の感じ。言っちゃ~悪いけど、もう、ドコからドウ見ても独裁国家だろ。違うかい」

 ん、ん~。

 「そして、ココにきて、ついに、その哀れなる末路が見え始めてきた、というわけだ」

 あ、哀れなる、末路?

 「つまり、ダレかにとってだけ都合のいい、その場しのぎの中央銀行の、長年に亘(ワタ)る愚行、悪行、に、よって、いよいよデッドラインを越えてしまいそうだ、ということだ」

 「越えてしまったら、どうなるのですか」

 「債務超過

 さ、債務超過!?

 「国際的に信用が失墜した中央銀行は、もう、中央銀行として機能しなくなる」

 な、なんと・・・。

 「アレだけ国会などででも指摘、追求、されていたにもかかわらず、『大丈夫!』と豪語し続けてきたわけだからな。ま、どんなに失敗しても責任なんて取らなくていいという調子のいいシステムのおかげで、ホント、やりたい放題だよな」

 おっしゃる通りだ。

 「何度も言わせてもらうけれど、権力者なんて絶対に責任を取らない。ヤラかすだけヤラかしておいて、アトはノンビリ、お気楽余生を過ごすだけだ」

 お気楽余生、か~。

 「そういえば、ほら。ドコかの高級レストランで、5万円もするディナーを頬張りながら『あなたは間違いなく有事の宰相だ』などと言ったり言われたりして悦に入っているわけだろ。ようするに、あの人たちにとっての有事なんて、所詮、そんなものなんだよな」

 たしかに。

 お一人様5万円のディナータイムを楽しめる、有事、とは、いったい、ナンなのだろう。

 「振り回されるのは、犠牲を強いられるのは、苦しみもがくのは、いつだって、シモジモである一般ピーポーたちだってこと」

 そして、仮に中央銀行が破綻したとしても、知らぬ存ぜぬで、お気楽余生をエンジョイするわけか~。

 ふ~。

 おそらく、モンテスキューも、草葉の陰で泣いている、はず。

(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1017

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と四十八

「ブタ ノ カクニ デハナク カクギ?」

 手間を惜しんで、邪魔臭がって、しなければならない説明すら渋る。の、その真逆の、手間をかけにかけたメチャクチャ旨いヤツを、スッカリ忘れていた。と、「権力者と説明」噺から、一気に、思いっ切り「食」系の新たなる話題に舵を切ってみせた、Aくん。

 「ちょっと食べてみる?」

 あまりにも唐突で強引な舵の切り具合に戸惑いつつも、ナンとなく気にはなる。

 「エラそうに宣ってはいるけれど、もちろん、いただきモノなんだけどね」

 いただきモノの、その、手間をかけにかけた美味いヤツ、とは、いったい。

 「百聞は一見に、いや、一食にしかず。このタナ種にも合うかもしれない」

 そう呟きながらAくん、私の返答など待とうともせず、またまた奥へと引っ込んでしまう。

 しかし、アトリエに、コレだけイロイロなアテやら酒やらを常備しているAくんの健康状態もまた、その美味いヤツ同様、というかソレ以上に気になってくる。

 肝臓は、すい臓は、マジで大丈夫なのだろうか。

 しばらくすると、奥から、ナンとも言えない醤油のイイ香り。

 うわ~、コレ、絶対に美味しいヤツだ。Aくんには申し訳ないけれど、一瞬にして、彼の健康状態のことなどドコかへ吹き飛んでしまう。

 ついでに、でもやっぱり黒ワインではなく辛口の日本酒だろうな~。などと、心の中で、人知れず、とりあえずプチ反旗も翻しておく。

 「ご近所の奥さんの料理の腕前が、もうホントにセミプロ級でさ~」

 嬉しそうにそう呟きながら奥から舞い戻ってきたAくん。ポンとテーブルの上に置かれた少し深みのある中皿からは、気持ち良さそうに白い湯気が立ち上(ノボ)っている。

 うわわ~。

 「豚の角煮、ですよね。美味しそうだ」

 「だろ。手間を惜しまずつくりました~感、溢れまくった珠玉の逸品。そのアルザスの逸品、ベラベッカに、勝るとも劣らない近所の奥さん自慢のスペシャリテなわけ」

 自慢のスペシャリテ、か~。

 「醤油と味醂(ミリン)と砂糖とのゴールデントライアングルな味付け以上に、慌てず、焦らず、が、ナニよりも重要らしくて、トにもカクにもジックリと湯がいてアクを取りる。そして、冷蔵庫で一晩寝かしてラードを固めて取り除く。全てはソコから、というわけだ」

 角煮だけに「とにもカクニも」なんだ、などと、コッソリと、あまり関係のないトコロに感心したりする。

 「ニガ味、エグ味、の元になる灰汁(アク)を、動脈硬化の元になる飽和脂肪酸がタップリと含まれるラードを、取る、取りまくる。そうでなきゃ、この旨さを引き出すことなんてできっこない、ってコトなんだよな~。いや~、その、より良いモノを追求しようする気持ち、ホント、畏れ入るよ」

 あまりにも美味しそうなので、辛抱堪らず、ガブッと。

 うっわ~。

 柔らかい。

 ジュ~シ~。

 しかも、甘辛さが絶妙で、上品。

 「旨いだろ」

 「メチャクチャ、美味しいです」

 「圧倒的な権力を握るあの人たちも、この豚の角煮のように、手間を惜しまず丁寧に、説明を尽くしてくれればいいんだけれど」

 「難しいでしょうね」

 「だろうな。だから、権力者ってヤツも政治も、善悪のアク(悪)とラードで血管も欠陥まみれのドロドロなんだろう」

 ん?

 アク、悪?

 血管も、欠陥まみれ?

 な、なるほど~、上手い!。Aくんに座布団三枚。

 するとAくん、ナニやら大発見でもしたかのように2割ほどボリュームを上げて、「あっ、あ~、そっ、そうか~。それで、手間のかかる『カクニ(角煮)』ではなくて、手間のかからない『カクギ(閣議)』でナンでもカンでも決定、な、わけか」、と。

 角煮ではなく、閣議

 ナンとなくソンな気もしなくはないが、でもやっぱりさすがにソレは、些(イササ)か違うような気がする。

(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1016

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と四十七

「セツメイ ト イイワケ ト イイノガレ ト」

 このところ、その意味がよくわからないワードが、巷を賑わしている。

 その一つが、説明。

 説明、説明、説明させていただく、説明責任を果たさせていただかねばなるまい、などと、ヤタラと公言される権力者たち。にもかかわらず、その説明とやらをキチンと聞かせてもらったという記憶は、ほとんどない。

 ナゼか。

 そもそも、権力者たちが考える「説明」とは、いったいナンなのだろう。ひょっとしたら、私たちが思うモノとは全くもって違うモノなのかもしれない。

 説明。

 説明、とは。

 たとえば、とても良いコトであるのに、残念ながらその良さが伝わらない、わかってもらえない。だから、その良さを、どうにかしてわかってもらうために、時間をかけて、懇切丁寧に、具体的に、説明しまくる。説明したおす。

 そんな感じが、私が抱いている「説明」のイメージである。

 ところが、権力者たちが用いる「説明」は、むしろ、「言い訳」に近い。

 たとえば、致命的にもなり得る問題点もあるにはあるが、大人の事情でコレでいかなきゃならない。もちろん、そう簡単には理解などしてくれそうにない。この際、マイナス面には蓋(フタ)をして、イイところばかりを膨らまし、今、今こそ、コレが必要なんだ、大切なんだ、と、繰り返し、言って言って言いまくる。言いたおす。

 まさに、ドコまでも、トンでもなく「言い訳」。場合によっては「言い逃れ」の臭いさえも漂う。

 そんな「権力者と説明」噺のアレやらコレやらを、ブツブツブツブツと独り言ちていると、Aくん、あたかもテープカットかナニかのように、気持ち良すぎるぐらい強引に、ブツッと、ソコに終止符を打つ。

 「丁寧に、も、真摯に、も、聞く、も、受け止める、も、説明させていただく、も、全て、そう見えるように、ってコトなんだろ。隠蔽してでも、嘘をついてでも、とにかく、そう見えさえすれば、説明させていただいているように見えさえすれば、騙(ダマ)せる、乗り切れる、逃げ切れる。そう、ホンにマサしく『言い逃れ』。言い逃れれば勝ち、とでも、思っているんだろうな、きっと」

(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1015

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と四十六

「ゴツゴツ ノ ベラベッカ!」

 「コレだよ、コレ、コレ」

 妙にプチハイテンションで、そう宣いながら奥から舞い戻ってきたAくんが、片付けられて些(イササ)か寂しくなっていたテーブルの上にポンと置いたモノ、ソレは、ナニやらゴツゴツとした数枚の茶色い輪切りたち。そして、少し遅れて赤ワインの瓶がドンと置かれる。

 「あっ、グラスを忘れた」

 慌てて奥にグラスを取りに行く、Aくん。

 テーブルの上に鎮座する軽く焼かれたソレらは、スイートでスパイシーな香りを放つ。好きな香りだ。

 「こんなのしかなくて」

 ゴツゴツの茶色い輪切りに負けないぐらいゴツゴツなグラスが二つ、遅ればせながら、ようやくトンと着地する。

 その遅れを取り戻すかのようにトクトクと注がれた赤ワインも、黒ワインと言い換えてもいいぐらいのゴツゴツ感満載の濃厚な色味で、いつの間にかテーブルの上は、まさに、ゴツゴツがゴツゴツを呼ぶゴツゴツワールドなのだ。

 うわっ、タンニン!

 「タンニン感、ありますよね~」

 「タナ種の葡萄からつくられたワインだからな」

 「タナ種、ですか」

 「そう、タナ種。タンニンがその語源らしいから、そりゃ、タンニン感では負けない」

 たしかに、タンニン感では、他のどのワインにも負けないような気はする。

 「ま、ちょいと摘まんでみてよ、ソイツを」

 先ほどから気になって仕方がなかったソイツを一切れ摘まみ上げて、一カジリ。

 おっ。

 急いで、ソイツを追い掛けるようにタナ種の黒ワインを、一グビリ。

 お~。

 口の中で、ドライフルーツとナッツとスパイスとタンニンとがメチャクチャ楽しそうに小躍りし始める。しかも、それぞれがバラバラに、勝手に躍り狂うのではなく、互いの違いを認め合いつつ、皆で寄って集(タカ)って新たなるスペッシャルでハイクオリティな躍りをつくり上げていくような、そんな感じなのである。

 「美味しいですね~」

 「だろ。さすがアルザス伝統菓子の逸品、ベラベッカ」

 ベラベッカ、というのか。

 「そのベラベッカに、地域的には真逆のタナ種が絡んでいくわけだからな。広がりも深みも増しに増します増しますワールドって感じなわけよ」

 なるほど、増しに増します増しますワールド、か~。

 ベラベッカやタナ種の黒ワインようにゴツゴツと、ヤタラと自己主張する印象のソレゾレが、絡みに絡んで広がりも深みも増しながら、も、最終的にはギュッと、より良いモノに凝縮していくこの感じ。考えすぎなのかもしれないけれど、なんとなく、私たちが見習わなければならないコトであるようにも思えてくる。

 するとAくん、も、私を真似るように納得の一カジリと一グビリ。の、そのあと、ほんの少しだけ間を置いて、ユルリと、ボソリと、一言。

 「こうした多様性のマリアージュこそが、未来を照らす光、なのかもな」

(つづく)