ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1215

はしご酒(Aくんのアトリエ) その六百と四十六

「ソレッテ エイテン デスヨネ イイエ サセン デス」

 その後、その彼と、まったくお会いすることはないのだけれど、随分と昔、たまたま、ある居酒屋で出会い、妙に意気投合した。

 ちょうど、ドコも人事異動の頃である。

 ご多分に洩れず、彼も、まさに人事異動の最中(サナカ)であった。

 私は、酔っていたということもあって、あまり深く考えることもなく「ソレって、栄転ですよね」、と。すると、すぐさま、彼は、限りなくドンヨリと、「いいえ、左遷です」と返してきたのである。その、あまりの「けんもほろろ」感に、さすがに少し怯(ヒル)んでしまったことを今でもハッキリと覚えている。

 いいえ、左遷です?

 その時、私は、ナゼ左遷なのか、が、全くもって理解できなかった。ドコからドウ考えても彼のその転勤は「栄転」としか思えず、よせばいいのに、酒の、酔いの、チカラを大いに借りて、食い下がってしまう。

 「だって、ソレって、コレからのこの国にとって、下支えっていうか、土台づくりっていうか、とにかく、絶対に疎(オロソ)かにできない、疎かにしちゃ~いけない、ポジションじゃないですか」

 儀礼的でもナンでもなく純粋にそう思ったからそう言わせてもらっただけなのだけれど、残念ながら、その私の熱き思いは彼のモトに届くことはなかったようだ。

 更に一層低空飛行気味に、もう一度、「いいえ、左遷です」、と。

 ホントにイイ感じの人であっただけに、申し訳ないけれど、一気に、秒速で、彼が色褪せて見えてしまって、残念で仕方がなかった。

 もちろん、その気持ち、わからないわけではない。

 おそらく、そのポジションは、出世やら面子(メンツ)やらプライドやらにまみれまくった王道でも本道でもないのだろう。しかし、王道でも本道でもなくていいじゃないか。むしろ、そんな道よりも歩き心地も居心地もいい、そして、ソコから見える景色も申し分ない、充実した側道やら脇道やら路地やらがあるように思えてならないからである。 

 もう、彼と会うことはないかもしれないが、もし、再会することがあったら、勇気を出して尋ねてみたい。

 「どうですか、あなたが進んだ道は」

(つづく)