はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と七十五
「マッスグサ ハ マッスル サ」
「トンでもないコトをヤラかしたがために窮地に陥ってしまった時の姑息な逃げ技の一つが、先ほども話題に上っていたわけだけれど。あるベテランアイドルが、おそらく、居た堪(タマ)れなくなって、本当に大切なのは、そんな小手先の、錬金術のような瞞(マヤカ)しの逃げ技なんかじゃなくて、正真正銘の『マッスグさ』だ、みたいなコトを、たしか、宣っていたんだよね」、とAくん。
「正真正銘の、真っ直ぐさ、ですか」、と私。
「そう。おそらく、彼は、マッスグさを見せることしか窮地を脱する術(スベ)はない。と、いう意味で、そう宣ったのだと思う」
たしかに、先ほど、話題に上った「トーンポリシング」のようなモノでは、結局のところ、ナニも、解決なんてしないと思う。
「今、妙に流行っている『論破』ってあるだろ」
「あ~、ありますね。ぜんぜん、論破にもナニもなっていない、論破」
「アレって、どんな手を使ってでも、とりあえず、相手を、アチラ側を、黙らせたら勝ち、みたいなトコ、あるんだよな」
「あります、あります。ほとんど、そんなのばかりです」
「先ほどのトーンポリシングやら揚げ足取りやら『代案を出しなさいよ』やら『あなただって、こんなコトを言ってましたよね』やら『ソレって、あなたの感想ですよね』やらを巧みに操って、とにかく、黙らせる。たとえ、アチラ側が呆れ果てて、『こんなバカと論じ合っても時間の無駄』と、話すのをやめたとしても、ソレは、コチラ側の勝ちになる、という、コチラ側が圧倒的に有利な、そんな、ドコまでも姑息な必殺技なわけよ」
う、うわ~。
いかにも悪徳弁護士あたりが考え付きそうな、トンでもない必殺技だ。しかし、それでも、今、なんとなく、巷で、重宝がられている人気の逃げ技であるようには思う。
「つまり、あの人たちの『論破』は、『Romper (ロンパー)』。あの、ヤタラと牛乳が美味しそうに見えた伝説の子ども参加型バラエティー番組『ロンパールーム』の、Romper 、ね。その、Romper 以外のナニモノでもないってこと」
「ロ、ロンパー、ですか」
「そう、Romper 。ワンパク小僧、とか、ヤンチャ、とか、という意味ね。どうだい、ピッタリ、ドンピシャ、だとは思わないかい」
「思います。メチャクチャ、思います」
「トにもカクにも、そういった、曲がりくねったあの手この手なんかじゃなくて、マッスグさで臨む。その気概が、その気概こそが、人の心を動かすんだ。そうでなければ、失った信頼を取り戻すことなどできやしないんだ。と、彼は言いたかったのだろうな」
なるほど。
「そのためにも、精神を、心を、魂を、鍛え上げなければならないと思う」
魂を、鍛え上げる?
「精神も、心も、魂も、筋肉。筋肉を鍛え上げなければ、いとも簡単に毒され、潰され、ブレまくる」
なるほどな~。
「マッスグさは、マッスルさ」
ん?。
おっ、お~。
限りなく、いつもの、あの、前頭葉の老化を感じさせてくれてはいるけれど、妙に、妙に腑に落ちる、Aくん、トドメの、プチ名言である。
(つづく)