はしご酒(Aくんのアトリエ) その六百と三十一
「アッ オオキナカブ!」
「あっ、おおきなかぶ!」
本棚の片隅で、あまりにも「そっとしておいて」感まみれであったものだから、全くもって気付けなかった、あの、泣く子も黙る福音館の名絵本だ。
「おおきなかぶ、ですね」
「あ~。以前、授業で使ったから」
「授業で、ですか」
「その絵本をそのまま使ったわけじゃないけれど、ソコに、音楽やら、ちょっとした遊びやらゲームやら体操やら、を、グチャグチャッと絡めて、より立体的に絵本の世界を体験、って感じ。ま、それなりに、ワ~ワ~盛り上がってはいたけど」
楽しそう。
「全然関係ないが、その、おおきなかぶ、で、思い出した」
ん?
「かぶ、は、かぶ、でも、ほら、あの、中央銀行やGPIF(年金)といった公的マネーの大規模投入やら為替介入によるトンでもない円安やらが齎(モタラ)した、バカみたいに大きく膨らんだ株高」
あ、あ~。
「絵本と違って、アッチのあの『おおきなかぶ』の場合は、善意でも応援でもなく、ただ、その魅力に、旨みに、つられて、次から次へとピーポーたちが群がっていくわけだけれど、『かぶ』がスッポ~ンと抜けたその時を、チョイと想像しただけで、僕なんかは、マジで恐ろしくなっちゃうんだけどね」
なる。私も、メチャクチャ、なる。
株に限らずナニもカも、トンでもない円安だから、儲かるから、この国を喰って喰って喰い倒す。だけど、潮目が変わった途端に、Aくんが危惧するように、ナニやらトンでもないコトが、起こってしまいそうな気がしてならない。
「ちなみに、その絵本の絵、彫刻家の佐藤忠良なんだよね。いい仕事するよな~」
(つづく)