はしご酒(Aのアトリエ) その五百と八十二
「ショック・ドクトリン! ショック・ドクトリン?」
「タイヘンだ。緊急事態だ。超法規的処置だ。この際、ドサクサに紛れて、ヤレるコトはナンでもヤッちまえ~」
えっ!?
「と、いうか、ドチラかというと、むしろ、トンでもないコトをヤッちまいたいがために、とりあえず、タイヘンだ。緊急事態だ。超法規的処置だ。などと、不安を煽(アオ)るだけ煽って、じゃ、仕方ないかな。ソレも必要かな。って、ピーポーたちに思わせてしまおうぜ、みたいな」
ええっ!?
「ソレが、噂(ウワサ)の『ショック・ドクトリン』だ」
ショ、ショック・ドクトリン?
たしかに、ショッキングといえばショッキングなオープニングではあるけれど。
「理詰めで固められたドクトリン、つまり、原則やら教義やら信念やらといったモノに、トビッキリの不安感をブチかまして、グラつかせ、場合によっては、ヘシ折る。オキテ破りの、まさに、邪道」
「それが、噂の、ショック・ドクトリンなわけですか」
「そう。たとえば、ミサイルが発射された、敵基地攻撃能力だ。隣国の有事は我が国の有事、防衛費2倍。え~い、面倒だ、この際、憲法9条なんて取っ払っちまえ~。みたいな、乱暴に言ってしまえばそんな感じだ。ホントのところは、トンでもない戦闘機を、ただ、無理やり、バカみたいに大量に、買わされるだけなんだけどな」
「そのために不安を煽る、と、いうことですか」
「そう。無理やり買わされる、なんて、口が避けても言えんだろ」
「言えないでしょうね、そんな情けないコト」
「ソレが、噂の」
「ショック・ドクトリン、ですね」
「そういうことだ」
そのショック・ドクトリン、結構、そこかしこにあるような気がする。
台風がパワーアップしている。暴風によって木が倒れたら危ない。街路樹を切り倒せ。
国際的ビッグイベントが間に合わない。突貫工事が可能になるように時間外労働の上限を撤廃しろ。
おそらく、これらのやり口も、Aくんが言うところの、その、ショック・ドクトリンというヤツなのだろう。
私たちは、よほどシッカリしていないと、次から次へと繰り出される、そうしたその手の姑息でダークなやり口に、翻弄され、振り回され、挙げ句の果てには、真っ当なドクトリンを見失い、取り返しがつかないトンでもない過ちを、犯してしまうかもしれない。(つづく)