はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と五十八
「ゼンセキニンヲモッテ タイオウスル」
「そんな中、またまた出たよ、スゴいのが」
えっ?
「先ほど発表してくれただろ」
ん?
「栄えある『狡(コス)い』四字熟語大賞ベスト3」
あ、あ~。
「拡大解釈、規制緩和、人事介入。なかなかのセレクト、さすがだよ」
ん~。
たしかに発表したのは私だけれど、そのベスト3は、Aくんが、以前、無理やり、ほぼゴリ押しでセレクトしたモノ。当の本人は、完全にそのことを忘れてしまっているようだが。
「四字熟語ではないんだけどね。でも、君のセレクトに勝るとも劣らない『狡さ』が、見事なまでに凝縮された、トンでもない名言なわけよ」
私のセレクトではないんだけどな~。
ま、いいや。
トにもカクにも、その、狡さが凝縮したトンでもない名言とは、いったい。
期待がドッと膨らむ。
「で、どんな名言なのですか」
「全責任をもって対応する」
「全責任をもって、対応する?」
「スゴくないかい。全責任をもって、対応する、だぜ」
たしかに、妙な言い回しだ。
「結局、責任は取らないんですよね、ソレって」
「あの『緊張感をもって注視する』の変異型だからな。ベースにあるモノはナニも変わらない。つまり、ドチラも『ナニもしない』。ホント、ブレないよな~。畏れ入るよ、まったく」
その、極めて暴力的な強行のために、トンでもないコトが起こってしまうかもしれないのに、ストレートに『責任を取る』とは、言わない。本当なら、もっと具体的に、起こり得る一つひとつに対して言及しなければならないはずなのに、絶対に、そんなコトはしない。いや~、具体性のない抽象的な約束ほど当てにならないものはないだけに、Aくん同様、畏れ入る。心底、畏れ入りまくる。
「全責任をもって対応する。こんな狡いセリフ、いったい、誰が考え付くのだろうな。まさか、こんなのも、あの、おエラい官僚たちが、ニヤニヤしながら考えたりしているのだろうか。仮にそうなら、もう、・・・」
ソコまで言ってAくん、オレンジワインをグビリと呑み干し、またまた奥へと姿を消してしまった。
(つづく)