ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.858

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と八十九

「ヒビタンレンシ イツクルトモワカラヌキカイニ ソナエヨ」

 日々鍛練し、いつ来るともわからぬ機会に備えよ。

 この言葉、某局の、ある、朝の連続テレビ小説なるものの中で、おそらく、あの、「5万回斬られた男」がモデルであろう斬られ役の、その、ベテラン俳優が、迷える若者たちに言い放った魂の名言なわけよ、とAくん。

 「その、朝の連続テレビ小説なるものを、見ておられるのですか」

 「見てる見てる、朝のルーティンの中に、シッカリと入っている」

 申し訳ないが、Aくんのその朝のルーティンを、私は、ほとんど見たことがない。

 「面白いのですか」

 「正直、面白かったり、そうでなかったり、と、まちまちなんだけれど、ここんところは、退職したということもあって、とにかく、見ている」

 「いわゆる、麻薬的な感じ、ってヤツですか」

 「見ないと落ち着かない、不安になる、ソワソワする、イライラする、みたいな?」

 「そうです」

 「ソレはないな、ない。どちらかというと、テレビドラマづくりの最後の砦(トリデ)、みたいな、そんな思いで見続けている」

 「テレビドラマづくりの、最後の砦、ですか」

 「そう。つまり、丁寧な仕事をしている、ということだ」

 丁寧な仕事、か~。

 考えてみれば、ドラマづくりも「ものづくり」。その「ものづくり」に対する心が荒れてしまっては、技が荒れてしまっては、本末転倒、もう、どうしようもない。その、存在意義まで怪しくなってくる。

 そんなことを漠然と思いながら、そのベテラン俳優のセリフを、もう一度、頭の中で繰り返してみる。

 日々鍛錬し、いつ来るともわからぬ機会に、備えよ。か~。

 たしかに、名言だ。

 するとAくん、なんとなく曇った表情で、ボソリと呟く。

 「伴虚無蔵(バン キョムゾウ)氏のこの名言でさえ、権力者たちの耳には、だからこそ憲法改正だ~、防衛費を増やせ~、敵基地攻撃能力を高めよ~、核の共有だ~、などと、聞こえるのかもしれないな」

 な、なんということだ。

 魂の名言さえも、ソレを聞く耳によっては、トンでもなく違うモノとして受け止められてしまう、ということなのだろうか。

(つづく)