はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と五十三
「ニレノキ キッテ アスファルト ヒロバ」
いつだったろう、随分、昔のことだ。
馴染みの居酒屋のカウンターで、ある調子のイイ男性と、隣り合わせになったことがある。ズンズンとお酒もすすんで、更に調子付いた彼は、ナゼか、ケータイの画面を見るや否や、突然、歓喜のガッツポーズ。
「おっ、やったな~。太陽の光は遮(サエギ)るし、暗いし、日が沈むと、ちょっと危ない感じだし。それに、鳥はピ~チク五月蝿(ウルサ)いし、虫は鬱陶(ウットウ)しいし、しかも、台風が来たら倒れてしまうかもしれないし。そんな、楡(ニレ)の巨木の森が、ついに伐採か~。よしよし、イイね~、再開発。ウエルカム、再開発、バンバンザイだ」
そして、今、その彼の願いが叶って、あの、奇跡的に都会に残っていた小さな森は、無味乾燥な殺伐としたアスファルトの広場と化している。
いったい、彼は、ナニに期待し、ナニを求めていたのだろう。ソコのところが、全くもって、ナゾがナゾ呼ぶナゾナゾワールドのままなのである。
あの、力付くで昇天せしめられた楡の巨木たち。
その、巨木たちの魂に、霊に、癒され、エナジーをもらっていた多くのピーポーたち。
そうしたピーポーたちのコトなどお構いなしに、あの時の、あの、彼のような、ナゼか再開発に期待を抱く屈折したデストロイヤーたちによって、森は、たいていの場合、人知れず、消されてきたのだ。
そうしたデストロイヤーたちは、今でも、温暖化によってパワーアップした真夏の、灼熱の、アスファルト広場で、ナンの後悔も躊躇もなく、諸手を挙げて、「なんてステキなアスファルト広場なんだ」、と、賛辞を送り続けるのだろうか。(つづく)