はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と六十一
「ミンシュシュギ ヘノ テロ! ミンシュシュギ ヘノ テロ?」
私が、新聞を手にとって、ボンヤリとソレを眺めていたからなのだろうけれど、同じようにAくんも、ソコから、別のある日の朝刊を摘まみ上げて、「コレだよ、コレ」、と。
コレだよ、コレ?
「多分、あの事件が、いよいよ法廷へ、というコトを受けての一面の大見出し、だとは思うのだけれど、なんだか底知れぬ違和感を抱いてしまったわけよ」
底知れぬ、違和感?
差し出されたその朝刊の一面の大見出しに目をやる。
「民主主義へのテロ、法廷へ。ですか」
「そう、ソレ、ソレ」
「アレって、民主主義へのテロだったのですか」
「僕は、もちろん、違うと思っているけれど・・・、ん~、とにかく、とにかくだ。コレから法廷へ、なわけだろ。少なくとも、今、この時点で、断定的なモノ言いは好ましくない。ましてや、公正でなければならないはずの新聞が、ソレじゃ~な~。印象操作、世論誘導、と、指摘されても文句は言えんだろ」
印象操作、世論誘導、か~。
「じゃ、どういう大見出しにすれば良かったのですか」
少し間をおいてAくん、ユルリと、「せめて、『民主主義へのテロか、個人的な恨みか、法廷へ』みたいな感じに、は、してもらいたかったな」、と。
なるほど。
「でも、では、ナゼ、そういう大見出しにしなかったのでしょう」
「圧倒的な権力を握り続けてきた権力者が、万が一にも、まかり間違っても、個人的な恨みで殺害されたなどということになっては困る、というコトなのだろう」
そ、そういうコトか。
「仮に、仮にだ。民主主義へのテロ、というモノが起こる可能性があるとしたら、おそらくソレは、むしろ、コレから行われる裁判のその中身だと思う」
えっ?
「民主主義に対する冒涜(ボウトク)という、静かなるテロ」
静かなる、テロ?
「圧倒的な権力による、目に見える暴力を伴わない合法的テロだ」
な、な、なんという、テロだ。
「ナニゴトにもビクともしない公正な裁判、なんて、古今東西、人間ごときでは、そう簡単にできるもんじゃない、ってコトなのだろうな」
(つづく)