ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.955

はしご酒(Aくんのアトリエ)、その百と百と百と八十六

「アア ヒハ ムジョウ」

 新聞。

 毎日、できればその日の朝に読むからこそ、新聞。

 とは思うけれど、なぜか、いつのまにか、何日分もまとめて目を通す、みたいなコトになってしまっている。数日前に世間が、その話題でバカみたいに盛り上がっていた(らしい)事件やらナンやらを、かなり遅れて時間差で知ったりするものだから、ちょっとしたタイムトラベラーの気分になる。

 そんなふうにその日も、ボンヤリと、タイムトラベラー気分で溜まりに溜まった新聞たちに目を通していると、ある記事が目に留まる。

 「火は無情」

 火は、無情?

 「火は本当に無情。紹介したい作品がまだまだあるのに、映画館がなければ私は無力」

 火事!?

 な、なんと、創業83年の老舗映画館が、もらい火によって焼失してしまった、という。

 火は無情。

 まさに、あゝ火は無情。

 ・・・。

 旅をしていて思うことがある。

 自然は、大自然は、いつだって、その脅威と隣り合わせだし、懐かしいレトロな商店街は、市場は、地震にも火事にも弱かったりする。

 しかしながら、そういった危うさを越えて、ソレでも自然は、目一杯美しく、商店街や市場は、切なくなるほど郷愁を誘う。

 妙にドチラも癒される。

 ナンとなくフツフツと元気も勇気も湧いてくる。

 みたいな、この感覚は、やはり捨て難い。

 おそらくソレが、旅の醍醐味なのであり、美しい自然がもつ力であり、地方の商店街が、市場が、もっている、ソコ知れぬ魅力なのだろう。

 ある、そんな市場が、ある日、突然、火災に見舞われたのである。

 いくら注意しても、燃えるものは燃える。壊れるものは壊れる。ソレは必然であり現実なのだ、と、言ってしまえばソレまでだけれど、やはり辛い、辛すぎる。

 呆然と立ち尽くす館主に警察官が、奇跡的に、焼けずに残ったチケット売り場の看板を手渡した、という。

 その警官もまた、この映画館の常連であったのかもしれない。

 「映画館であった証しが残って良かった。何か残れば、これをまた掲げようという気持ちになる」

 手渡されたその看板を握りしめながら館主が漏らしたその言葉に、ナニやら一筋の光のようなモノを感じた。

 ひょっとしたら、その看板が、更なる奇跡を起こしてくれそうな気が、ズンズンとしてくる。(つづく)