ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.680

 はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と二十一

「ネタミン シー!」

 美容やら、いま流行りの免疫力アップやら、心のトラブルの解消やら、に、多大なる手助けをしてくれると言われているスーパービタミンが、この、ビタミンCであるわけだ、と、なぜか本棚の左の端に無造作に転がっていた、のど飴の袋を手に取って語り出した、Aくん。その、やたらとイエローなプラスチック系の袋には、レモンなん個分のビタミンC、というロゴが、コレ見よがしに書かれたりしている。

 「ビタミンCの代名詞みたいに言われているレモンだけれど、実はそれほどビタミンCは含まれていなかったりするらしいんだよね」

 「えっ!、そうなのですか」

 ビタミンCにあまり興味を示すこともなく、ただなんとなく聞いていた私は、その、「レモン、ビタミンCあるある詐欺」には、さすがに瞬時に反応してしまう。

 「サツマイモや豚肉の赤身に、むしろ多く含まれていたりする、などと宣う専門家もいるし」

 「ぶ、豚肉の赤身に、ですか」

 「ま、不確実情報だ、けどね」

 「ふ、不確実情報だ、けどね、ですか」

 あのOくんが、時折用いてみせた、グイグイと語るだけ語ったあとの、「知らんけど」という必殺のフレーズを、ふと思い出す。

 「ソレはソレとして、とにかく、そんな憧(アコガ)れのビタミンCなんだけれど、その憧れがヒョンなことで醜く屈折し、厄介なる変異型を生み落としてしまったんだな。それが、妬(ネタ)みのネタミンC、というわけだ」

 「ネ、ネタミンC、ですか」

 「そう、妬みのネタミンC。まだ、巷では、それほど周知はされていないんだけどね、コイツが実にネチャッと罪深い」

 憧れが、こともあろうに妬みに、変異、とは。たしかに、かなり厄介で罪深そうた。

 「色とりどりのパワーを秘めたビタミンCに、普通なら、いいね~、憧れるよね~、よし、僕も私も頑張ってみよう、なんてことになると思うんだけれど、いいよな~、ムカつくよな~、ケッ、貶(オトシ)めるようなコトでも拡散してやるか~、などと、悪魔的な展開まで引き起こすこの変異型、鳥肌が立つほど厄介だとは思わないかい」

 またまた、またまたAくん得意のヤヤこしさ満載の言い回しではあるものの、その厄介なる変異型の罪深い核心の部分は、充分にヒリヒリと伝わってくる。

 「思います。立った鳥肌がパキパキに凍てつくほど、思いますとも」

(つづく)