はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と二十一
「ネタミン シー!」
美容やら、いま流行りの免疫力アップやら、心のトラブルの解消やら、に、多大なる手助けをしてくれると言われているスーパービタミンが、この、ビタミンCであるわけだ、と、なぜか本棚の左の端に無造作に転がっていた、のど飴の袋を手に取って語り出した、Aくん。その、やたらとイエローなプラスチック系の袋には、レモンなん個分のビタミンC、というロゴが、コレ見よがしに書かれたりしている。
「ビタミンCの代名詞みたいに言われているレモンだけれど、実はそれほどビタミンCは含まれていなかったりするらしいんだよね」
「えっ!、そうなのですか」
ビタミンCにあまり興味を示すこともなく、ただなんとなく聞いていた私は、その、「レモン、ビタミンCあるある詐欺」には、さすがに瞬時に反応してしまう。
「サツマイモや豚肉の赤身に、むしろ多く含まれていたりする、などと宣う専門家もいるし」
「ぶ、豚肉の赤身に、ですか」
「ま、不確実情報だ、けどね」
「ふ、不確実情報だ、けどね、ですか」
あのOくんが、時折用いてみせた、グイグイと語るだけ語ったあとの、「知らんけど」という必殺のフレーズを、ふと思い出す。
「ソレはソレとして、とにかく、そんな憧(アコガ)れのビタミンCなんだけれど、その憧れがヒョンなことで醜く屈折し、厄介なる変異型を生み落としてしまったんだな。それが、妬(ネタ)みのネタミンC、というわけだ」
「ネ、ネタミンC、ですか」
「そう、妬みのネタミンC。まだ、巷では、それほど周知はされていないんだけどね、コイツが実にネチャッと罪深い」
憧れが、こともあろうに妬みに、変異、とは。たしかに、かなり厄介で罪深そうた。
「色とりどりのパワーを秘めたビタミンCに、普通なら、いいね~、憧れるよね~、よし、僕も私も頑張ってみよう、なんてことになると思うんだけれど、いいよな~、ムカつくよな~、ケッ、貶(オトシ)めるようなコトでも拡散してやるか~、などと、悪魔的な展開まで引き起こすこの変異型、鳥肌が立つほど厄介だとは思わないかい」
またまた、またまたAくん得意のヤヤこしさ満載の言い回しではあるものの、その厄介なる変異型の罪深い核心の部分は、充分にヒリヒリと伝わってくる。
「思います。立った鳥肌がパキパキに凍てつくほど、思いますとも」
(つづく)