ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.675

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と十六

「シェー!」

 赤塚不二夫は、ギャグ漫画界のスーパースターだった、と、シミジミと語り始めたAくん。

 赤塚不二夫ならよく存じ上げている。とはいえ、幼少の頃は、藤子不二雄とか峰不二子とか、と、ゴチャゴチャになったりしてはいたのだけれど。

 「ある漫画雑誌の、赤塚不二夫の名を冠した賞に応募したこともあるんだぜ」、と、なにやらハードボイルド風に、誇らしげに、カミングアウトまでしてくれたAくん。並々ならぬ「赤塚不二夫」愛が、コチラにまで伝わってくる。

 たしかに、まぎれもなく赤塚不二夫手塚治虫は、群雄割拠のあの時代の漫画界において、燦然と光り輝いていた大いなる双子星であったように思える。

 「赤塚不二夫作品、アレやらコレやらイロイロとあるけれど、無理やり一つ選ぶとしたら?」

 一つを選ぶとしたら、か~。

 ・・・

 なぜか、あの、ハタ坊、が、頭の中に現れて、走り始める。

 「ハタ坊、って、ナニに出ていましたっけ」

 「あ~、ハタ坊ダジョ~、の、ハタ坊ね。スペッシャルなキャラクターの宝庫とも言われている、あの、『おそ松くん』だな」

 そうだ、おそ松くんだ、間違いない。

 「ダヨ~ンのおじさん、なんてのも、登場していたな」

 いたいた、ダヨ~ンのおじさん。

 「おでんのチビ太も」

 いましたいました、おでんのチビ太。

 ハタ坊、ダヨ~ンのおじさん、チビ太、・・・、一癖も二癖もありまくる、個性に富んだキャラクターたちが、トンでもないトラブルに巻き込まれながらも、とびっきりイキイキと共存する世界がソコにある。

 共存する世界。ソコがいい。理屈抜きにいい。

 するとAくん、ナニを思ったのか、突然スクッと立ち上がって、あの、「シェー!」を。

 「ど、どうされたのですか」

 「決め手は右手、右手はまっすぐ上に伸びてないとダメなんだ」

 まさに亀の甲より年の功。眼前の老練な「シェー!」は、思いのほか美しかった。(つづく)