はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と十六
「シェー!」
赤塚不二夫は、ギャグ漫画界のスーパースターだった、と、シミジミと語り始めたAくん。
赤塚不二夫ならよく存じ上げている。とはいえ、幼少の頃は、藤子不二雄とか峰不二子とか、と、ゴチャゴチャになったりしてはいたのだけれど。
「ある漫画雑誌の、赤塚不二夫の名を冠した賞に応募したこともあるんだぜ」、と、なにやらハードボイルド風に、誇らしげに、カミングアウトまでしてくれたAくん。並々ならぬ「赤塚不二夫」愛が、コチラにまで伝わってくる。
たしかに、まぎれもなく赤塚不二夫と手塚治虫は、群雄割拠のあの時代の漫画界において、燦然と光り輝いていた大いなる双子星であったように思える。
「赤塚不二夫作品、アレやらコレやらイロイロとあるけれど、無理やり一つ選ぶとしたら?」
一つを選ぶとしたら、か~。
・・・
なぜか、あの、ハタ坊、が、頭の中に現れて、走り始める。
「ハタ坊、って、ナニに出ていましたっけ」
「あ~、ハタ坊ダジョ~、の、ハタ坊ね。スペッシャルなキャラクターの宝庫とも言われている、あの、『おそ松くん』だな」
そうだ、おそ松くんだ、間違いない。
「ダヨ~ンのおじさん、なんてのも、登場していたな」
いたいた、ダヨ~ンのおじさん。
「おでんのチビ太も」
いましたいました、おでんのチビ太。
ハタ坊、ダヨ~ンのおじさん、チビ太、・・・、一癖も二癖もありまくる、個性に富んだキャラクターたちが、トンでもないトラブルに巻き込まれながらも、とびっきりイキイキと共存する世界がソコにある。
共存する世界。ソコがいい。理屈抜きにいい。
するとAくん、ナニを思ったのか、突然スクッと立ち上がって、あの、「シェー!」を。
「ど、どうされたのですか」
「決め手は右手、右手はまっすぐ上に伸びてないとダメなんだ」
まさに亀の甲より年の功。眼前の老練な「シェー!」は、思いのほか美しかった。(つづく)