はしご酒(4軒目) その百と百と十五
「テンサイヨウチエンジ ノ ススメ」②
「とにかく、まるで思い出せない程度の、どうでもいいような、そんな、ウダ話で盛り上がっていた、まさにそのとき、突然、奥さんが、旦那に、クールに言うわけよ。まるで幼稚園児ね」
「そこまでは、先ほど伺いました。それで?」
あまりにもAくんが、もったいぶるものだから、気ぜわしく急(セ)かせてしまう、私。
「すると、すると旦那は、胸を張って、こう言い返す。幼稚園児、大いに結構、結構じゃないか。言い返された奥さんは、動じる様子など微塵も見せることなく、あら、幼稚園児の反抗期?。圧倒的劣勢の旦那は、ほんの少しだけ残っていたお猪口の酒をグビッとやる。そして、めげずに熱く語るわけだ。事情やら都合やらまみれの大人なんかより、ウンといい。できることなら、僕は、天才幼稚園児でありたい、とね」
「なんとなく、不思議にジ~ンときますね。天才幼稚園児か~」
「そう、天才幼稚園児」
「その熱き魂の叫びを受けて、奥さんは、そのあと、どう言い返されたんですか」
「呆れたように、はいはい、で、おしまい」
Zさんらしいと言えばZさんらしいが、ココから、というところでサラリと終わってしまい、ナンとなく肩透かしを食らった感は歪めない。でも、ナンとなく気にはなる。その、天才幼稚園児。
「天才幼稚園児、いい響きだろ。あれから頭の中に、ベチャッとへばり付いたままなんだ。というか、ソコしか覚えていないんだけどね」
ソコしか覚えていないとは、なかなかな話だけれど、天才幼稚園児の、その響きの良さだけは、すっかり共有できている自分が、ココにいる。
「めざせ、天才幼稚園児!、コレだよ、コレ、コレしかない」
そう宣言するAくんの瞳が、あたかも、まるで、ナニを仕出かすかわからない、天才肌の悪戯(イタズラ)っ子のソレのように、目一杯、キラキラと輝く。(つづく)
追記
まだまだ、まだまだ。「めざせ、天才幼稚園児!」