ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.647

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十八

「ボウキャク ノ ソナタ

 でもね、それでも、そんな言い訳の、そのトップクラスに属する「全く記憶にございません」のごとく、キレイさっぱりナニもカも忘れ去ることができれば、と、思うことはないかい?、とAくん。

 キレイさっぱりナニもカも、か~。

 たしかに私は、忘れ去りたいコトを忘れ去れない辛さは、ソコから逃れられない辛さである、と、思ってはいる。しかしながら、そのもう一方で、ソコから逃げられない、とは、ソコから逃げるべきではない、という、お天道(テント)さまの正しきことへのお導きである、とも、思っているのである。

 「あまりにも重たすぎるコト、抱えきれないコト、を、忘れ去りたい、と、思ってしまうことは、たしかにあります。が、忘れ去ることの罪悪感もまた拭い去れないでいるのです」、と私。

 「なるほど、キレイさっぱりナニもカも、忘れ去ることができれば、などと、考えてしまうこと自体、罪だということだな」

 「罪とまでは・・・、でも、場合によっては、忘れ去る、が、逃げる、以外のナニものでもない、としか思えないときがある、ということです」

 「忘れ去る、が、逃げる、か」

 「厄介なのは、それでも逃げたくなることがある、ということなのです。ソコから逃げ出さないと、押し潰されて、自分自身がダメになってしまうのではないか、と」

 「押し潰されてダメになる、か。・・・、ある、あるよな~、ある。それゆえに、忘却の彼方へ自分自身を連れて行ってしまいたくなる」

 なんとなく二人して、忘却の沼に、逃避の沼に、ズブズブと沈み込んでしまいそうになりながら、Aくん、でもさ~、と、少々呆れ果てたような表情を浮かべたまま語り始める。

 「それにしても、とくにこの国の、その未来に責任がある立場のエライ人たちってのは、もちろん皆が皆とまでは言わないけれど、どうも、そんな葛藤など微塵も見せることも、臭わすことすらもなく、見事なまでにいとも簡単に忘却の彼方へ飛んで行ってしまうよな~」

 そう言われればそんな気もする。

 たしかにあの人たちは、繰り返し繰り返し、信じられないほど軽やかに、悪びれることなく、忘却のソナタ、♪記憶にございません、を、口遊(ズサ)む。(つづく)