ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.628

はしご酒(Aくんのアトリエ) その六十九

「エークン ユメヲミル ユメヲカタル」⑦

 Aくんの夢の中のもうひとりのAくんは、持ち前の体力と行動力と、失敗しがちな判断力とで、とうとう、ふたりの後期高齢者によるサスペンスフルな冒険飛行アドベンチャーに足を踏み入れたのである。

 「水上機セスナは初めてで?、ブオッホ。もちろん、初めてだけど、・・・先ほどの娘さんは、お孫さん?。いいや、バイトの女の子、いい娘(コ)じゃろ、ブオッホ。バイトの娘か~、てっきりお孫さんかと。ワシ、独身貴族だから。独身貴族?、すでに死語なのか、このところトンと聞かなくなった。ん?、トンと聞かなくなった、も、このところトンと聞かなくなったな。コイツもすでに死語か?。この世の中、死語だらけだな」

 ん~ん~ん~ん~。

 悲しいかな後期高齢者同士。死語三昧なのは当然至極のことなのかもしれない。この今を生きる後期高齢者は、秒速の時代の流れに翻弄され、そして、置いてけぼりにされがちなのである。

 「一転俄に掻き曇り、バリバリバリが、ババラババラと不穏な音に変わるや否や、グワングワン、バチバチ、ピカッ、バシッ、バキバキ、プスプス、と、鬼気迫る音音音のオンパレードだ。だから言わないことではない、これは死ぬな、間違いなく死ぬ。あっ、この原稿、届けないと、マズいな、マズい。お客さん、不時着しますから、頭下げていて、ブオッホ、くださいや。頭下げていてと言われてもな~、参ったな~・・・わ、わ、わ、わ、わ~、ガシャガシャガシャ、バウンバウンバウン、パラランパララン、プッシュ~・・・。ブオッホ、無事、着陸できましたぜ、お客さん」

 ん~ん~ん~ん~ん~。

 きた、きた、きた~、王道アドベンチャー。ワクワク感もアツアツからアチアチに、もう沸騰寸前だ。

 「まだまだ腕は鈍っていない、っちゅうことですな、ブオッホッホッホ~。エゲツない強風にドコまで流されてしまったのだろう。機内から出ると、ソコはイヤになるほどの高温多湿なジャングル。聞いたことがないような獣たちの鳴き声声声の洪水だ。おいおいおいおい、ドコなんだ、ココは。水、飲みますかい?。そんなものいらない、あっ、そうだ、ケータイ、ケータイ、わっ、忘れた、ナニをやっているんだ、俺は。すると、そのジャングルの、絡み合うようにして群生する熱帯植物の茎やら蔓(ツル)やら葉っぱやらを、ガサガサガサと掻き分けるようにして」

 よしっ。

 いよいよ、だ。体力と腕力が自慢の後期高齢者の腕の見せどころ。ここから一気に、まだ見ぬ強敵との華麗なるスリリングなアクションを、展開していくのだろうな、きっと。(つづく)