はしご酒(Aくんのアトリエ) その六十七
「エークン ユメヲミル ユメヲカタル」⑤
「原稿が入っている紙袋に印刷されている出版社の住所を、そのキュートな娘さんに見せながら、さすがにココへは行けないでしょ、と、とりあえず言ってみる」
たしかに、水上機セスナだけに、街中には着陸できないだろう。
「あ~、大丈夫ですよ。という意外な返事に、だ、大丈夫なんですか、と、驚くAくん。でも、お高いんでしょ、と、もう一つのハードルについても問うてみる。大胆なオキテ破りの規制緩和サマサマの、国による経済刺激政策の目玉、Go To セスナキャンペーン中ですから、一般の交通機関の運賃と、ほとんどかわりませんよ。どこかで聞いたような聞いてないような、そんな政策だけれど、でも、コレがあるので、やっぱり電車にしようかと、と、言いつつ、振替輸送のチケットを彼女に見せる。あ~、じゃ、振替輸送ということで無料ですね。む、む、無料ですか。はい、国の目玉政策ですから」
ん~。
タイムリーな政治ネタも、さり気なく交えてくるあたりも、憎い手法だ。
「無料か~。こんなキュートな娘さんとの、しかも無料のスカイランデブー。一気に気持ちがプルプルと動き出したAくん、結局、そんなこんなで、じゃ、お願いしようかな、などと宣いつつ同意してしまう。ただ、これほどイイことずくめの振替輸送なのに、俺以外には誰も乗ろうとしないのは・・・、と、ブツブツ独り言ちながら周りを見渡すと、もう誰も歩いていない。この娘さんと話しているうちに復旧したのかもしれないな」
ん~ん~。
ワクワク感が、もう一回りほどアツアツを増す。(つづく)