はしご酒(Aくんのアトリエ) その六十四
「エークン ユメヲミル ユメヲカタル」②
「そんなAくんだけに、さっそく駅構内のエスカレーターで、周囲の迷惑顧みず荒っぽく駆け上がる若者Bと、一悶着を起こす」
おおおっ。
ちょっとした時事ネタも織り交ぜつつ、という手法の展開だな。
「後期高齢者にしては怪力の持ち主であるAくんは、ワガモノ顔のその若者Bの服を、ガシッとワシ掴む」
ヤバい、ヤバいかも、Aくん。
「おっさ~ん、アブねえじゃねえかよ~。ドッチが危ないんだ、危ないのは君のほう・・・ガーン、ドテン、キャー」
まさに、絵に描いたような返り討ち。
「は、鼻血、出てますよ。大丈夫です。きゅ、救急車呼びましょうか。大丈夫です。エスカレーター付近は、朝から一気に大騒ぎである」
怪力が自慢といっても後期高齢者は後期高齢者、反射神経に難あり、と、みた。
「すでに若者Bの姿はドコにもない。口の中が鉄臭い。幸い口の中を切ってはいないようで、おそらく鼻血のせいだろう。小さく丸めたティッシュを左側の鼻の穴に詰める。もう大丈夫です。そう言ってAくんは、その場から逃げるようにして、ヤセ我慢かと思われてしまうぐらいの力強さで歩き出す」
多分、早々に、300枚の原稿を出版社まで届けなければならないのだろうけれど、はたしてAくんは、無事、辿り着くことができるのだろうか。膨らむワクワク感に熱が帯び始める。(つづく)