はしご酒(Aくんのアトリエ) その六十三
「エークン ユメヲミル ユメヲカタル」①
「君の、ジョン・コルトレーンとのジョイントライブに比べれば、見劣りもするし、その足元にも及ばないレベルの、そんな、僕の夢なんだけれど・・・」
おっ。
いい夢を見た、という記憶はないな~、と、嘆いていたAくん。そのAくんが、ナニかの弾みで、実は、こんなトビッキリの夢を見ていたんだ、ということを、どうやらようやく、思い出せたようだ。
「たった今、ナゼか思い出せた僕が見た夢を、聞いてくれるかい」
「もちろんです」
間髪入れずにそう答えた私の中のワクワク感が、ブワンと気持ち良く肥大する。
よしっ、という表情を見せたAくんは、ユルリと、その、トビッキリの夢を語り始める。
「頑固なまでに手書きにこだわる小説家の僕は、後期高齢者であるベテランスタッフに、徹夜に徹夜を重ねてどうにか書き上げた新作の、その300枚程度の原稿の束を託す」
小説家なんだ。
しかも、スタッフがいるぐらいだから、売れっ子作家なのだろう。
「その新作というのは、後期高齢者たちのサスペンスフルなアドベンチャー物語なわけ」
おおっ。
お金も健康も前途多難で、ヤヤもすると内向きになりがちな後期高齢者に、あえてのサスペンスフルなアドベンチャーを課す、か~。さすがAくん、イイところを突いてくる。
「ナニかの予兆かと思わせるほどの不気味な朝焼けである。自宅兼仕事場である郊外の、細やかなる一戸建て住宅を飛び出したスタッフ、とりあえず便宜上、このスタッフをAくんとしよう」
んっ?
私がAくんのことを「Aくん」と呼んでいることをAくんは知らないわけだから、AくんがそのスタッフをAくんとすることに、ナンの問題も不都合もないのだけれど、間違いなく、コレは、ヤヤこしくなる。
「体力と行動力には定評があるものの、判断力には知力が伴いにくいという、典型的な『マッハGoGoGo』タイプのAくんは、後期高齢者とは到底思えないほどの類い稀なる脚力にモノを言わせて、最寄りの駅まで爆走する」
んんっ?
どんなタイプだ、と、突っ込みたいところだけれど、ココはググッと堪(コラ)える。とにかく、そのAくんは、体力にモノを言わせて突っ走るタイプの後期高齢者である、ということだけは間違いなさそうだ。(つづく)