ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.560

はしご酒(Aくんのアトリエ) その壱

「イタダキマス」

 鉄骨と木材とブロックと、ちょっとレトロなガラスなどが、おしゃれ、という感じではなく、また違う気持ちよさで雑然と、むき出しに混じり合ったような、そんな、心地好くも怪しい異空間に、スルスルと吸い込まれるように、私も、その中に、入る。

 ナニやら、行き場を失った舞台用の小道具っぽいモノやら、タイムスリップしたかのような装置っぽいモノやらで、ゴチャゴチャッとした短い通路を抜けると、2、30人ぐらいなら余裕の、小振りの講堂のような空間に出る。いかにも、that's 芝居小屋、といった趣(オモムキ)である。

 そして、その、手前の片隅には、作業机やら丸テーブルやらソファーやら石油ストーブやらナンやらカンが、密集気味に寄り添っている。

 それほど寒さは感じなかったが、Aくんは、そのストーブに火を点(ツ)ける。

 青白い空気が、ほんの少しオレンジ色を帯びる。

 奥に、別の部屋でもあるのか、Aくん、バタン、ガタン、ドン、トトン、チン、などと、音を立てているな、と、思っていたら、一升瓶と、小皿が乗ったお盆を手に、舞い戻ってくる。

 「よし、これでいい。しばらくは、これでもつ」、とAくん。

 「すみません」、と、恐縮しつつ、幾つかの小皿によそわれたモノに目をやる。

 さつま揚げ、のような練りモノと、おそらく、かぶら寿し。そして、きっとコレだな、女将さんがもたせてくれたモノは。だし巻き卵、いい香りだ。

 ポンッ、と、小さな音がする。

 「どうだろう、放ったらかし熟成だからな~」、と、宣いつつAくん、少し大きめの、ポッテリとした焼き物の酒器に注ぐ。

 「ナニからナニまで、いただきモノのオンパレードだけど、いただきモノだから、こそ、結構、イケるかもよ」

 Aくんには申し訳ないけれど、たしかに、おっしゃる通り、かもしれない。もちろん、私の箸は、躊躇(タメラ)うことなく一直線に、女将さんのだし巻き卵に向かう。

 「いただきます」

(つづく)