ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.539

はしご酒(4軒目) その百と百と八十

「ワスレサラレヨウトシテイル」

 私たちの存在そのものが、世の中から忘れ去られようとしている、と、ある難民キャンプの男性が、重く呟く。

 圧倒的に強い者たちに振り回され続けてきた圧倒的に弱い者たちの嘆きのほとんどは、誰の耳にも届かないまま、乾いた砂の地面にポトリと落ちたその途端に、跡形もなく吸い込まれていく。

 そうした嘆きは、もちろん、他の国に限ったものではなく、この国のそこかしこからも、聞こうとする気持ちさえあれば、いくらでも聞こえてくる。

 たとえば、原発事故、温暖化による自然災害(私は、人類災害だと思っているけれど)。それらに見舞われ、多くのものを失ったままの人たちが、この国には数多くいる。

 ふと、思うことがある、とAくん。そのまま、ユルリと静かに語り始める。

 「視聴率が見込めないからなのだろうか、深夜に人知れず放映されている、そうした捨て置けないテーマにスポットを当てたドキュメンタリー番組を見て、はじめて、まだ道半ば、どころか、まだまだ、ナニも解決されていないじゃないか、と、気付かされる自分がいる。と同時に、そんな自分自身に対して嫌悪感さえ抱く」、と。

 この国の、この星の、捨て置けない悲劇たちが、いつのまにか私たちの心の中からドンドンと遠ざかっていく、忘れ去られていく、というこの感覚は、とてつもなく罪深く、そして、さらには、とてつもなく残酷に、人類を、強者と弱者に、勝者と敗者に、分断せしめていく、この世界の現実に、確実に繋がっていく。(つづく)