はしご酒(4軒目) その百と百と八十六
「ジョウザイキン ト アイジョウ トガ パワーヲ アタエテイル」(アル ジョユウサン)
ある女優さんが、「料理、毎日、されているんですか」、と、尋ねられたときに、笑顔でサラリと、こう答えたんだよね、とAくん。
私のこの手に付着している常在箘と、そして愛情とが、食べ物にパワーを与えている、と、信じているので、料理は、私がします
その女優さんの、そのときの、その言葉が、好きなんだ、と言う。
「なんか凄いですね。常在箘、と、愛情」、と私。
「そう、常在箘と愛情。そうした、科学的なモノと精神的なモノとのコラボレーション、みたいな、そんな感じ、大事なコトだとも思っている」
「コ、コラボレーション、ですか」
「そう、コラボレーション。僕の頭の中の構造が、全くもって理系ではないので、どうしても精神的なモノに傾倒しがちなんだけれど、でも、両者が、お互いを尊重しつつ、いい形のタッグを組むことができてさえいれば、それはそれでやはり、この国にとっても、この星にとっても、きっと、意味のあることだと思う」
たしかに、そういう気はする。気はするが、ナニかが、ドコかが、引っ掛かる。
「でも、その、いい形のタッグを組む、が、難しいからこそ、科学は、時として暴走してきたのではないのですか」
言いたいことが、キチッと、まとまっているわけではいないし、ちょっとケンカごしだし、なのだけれど、そのままAくんにぶつけてみる。
するとAくんは、そうした私の問い掛けも想定内と言わんばかりに、よりトーンもボリュームも抑え気味に、ユルリと答える。
「君の言う通りだ。だからこそ、尚のこと、その女優さんの、その、実にいい塩梅の言葉が、シックリと、僕の五臓六腑に沁み入ってきたのかもしれないな」
(つづく)