ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.517

はしご酒(4軒目) その百と百と五十八

「アブラカタブラ」

 「アブラカタブラ~」

 またまた突然にAくんが、ナニかを思い出したのか、ナニかに取り憑かれたのか、怪しげな呪文を唱え始める。

 「な、なんですか、それ」

 「番組名は忘れたけれど、大昔、TVでやっていたよ。空飛ぶ魔法の絨毯(ジュウタン)、知らないの?」

 「知りません」 

 「知らないか~。よく、ひとり遊びしてたんだよね。玄関の絨毯で、空飛ぶ絨毯あそび。1、2時間ぐらいなら余裕だったな」

 「で、その呪文が、アブラカタブラ、な、わけですか」

 「そうそうそうそうそう、アブラカタブラ~!。それで、空を飛べてしまう、どこまでも、行けてしまう」

 あの頃、もちろん、デジタル系ゲームなどあるわけもなく、アナログ系ゲームにしても、そう易々とは買ってもらえない。運よく、一度(ヒトタビ)買ってもらったりしたならば、それから数年間は、「買ってあげたでしょ」、と、言われ続ける。そんなあの頃の、あの時代の、その感じは、Aくんよりも(おそらく)ひと回りぐらいは若い(であろう)私であっても、それなりにリアルに、理解はできる。

 子どもたちにとって、べラボ~に理不尽な、あの時代を、どうにかして、より楽しく生きていくためには、ひとり遊びの天才になる必要があったのである。

 「ひとり遊びの天才になるための呪文が、アブラカタブラ~、で、あったわけですね」、と私。

 「ひとり遊びの天才か~、・・・、なるほど、そうであったのかもしれないな」、と、妙に納得するAくん。

 アブラカタブラ~

 アブラカタブラ~

 アブラカタブラ~

 たしかに、そう呪文を唱えてみると、ナニやら周囲の空気が一変し、ナニかが舞い降りて、ナニかをやり出せそうな気になってくるものだから、不思議だ。(つづく)

 

 

 

 

追記

 コメント、感謝。

 自分自身を、愛おしく思いづらい時代の、その罪の深さは、自分自身に、可能性を見出だせなくなる、という、まさに、ソコにあるような気が。