ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.450

はしご酒(4軒目) その百と九十一

「トナリノヒト ノ イキヅカイ」②

 「僕は、オーケストラの奏者は、当然、その全神経を、指揮者に集中させているものだと、思い込んでいたんだよね」

 Aくんが大好きなハードロックも、よくわからないけれど、クラシックなるものも、負けず劣らず、よくわからない。

 そんなクラシックだけれども、古今東西、辛うじて私が存じ上げているクラシック関連の名前は、作曲家を除けば指揮者の名前ばかり。つまり、クラシック音痴の私にとっては、オーケストラ、イコール、指揮者、という、まさにそんな感じなのである。

 「オーケストラなんてものは、指揮者で決まるわけでしょ。オーケストラ、イコール、指揮者、・・・、な、わけ、ないですよね、あるわけがない、コレ撤回します、忘れてください」

 迫り来る嵐などナニするものぞ、と、ブロロロロ~っと強気に飛び立ってはみたものの、アッというまに自ら緊急不時着してしまう。

 「ま、そんなにアッサリと撤回しなくても。ようするに、君が言いたいことは、それぐらい指揮者は、オーケストラの扇の要(オオギノカナメ)、それゆえに、その要に奏者たちがその全神経を集中させることは当たり前、だってことだよね」

 「そう、そうです、そう言いたかったんです」

 得意分野でもアタフタするのに、ましてや、苦手分野となると、どうしても、とびっきりグダグダな、嫌な汗をかく。

 「普通は、そう思うよな~。そう思うことに異議を唱えることのほうが普通じゃ、ない」

 Aくんが、慈悲深く、私の考えに賛同してくれたものだから、ほんの少し、その嫌な汗が和(ヤワ)らぐ。(つづく)