ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.451

はしご酒(4軒目) その百と九十二

「トナリノヒト ノ イキヅカイ」③

 「オーケストラみたいな、あんなにウジャッと密集した過酷な環境の中で、頼りになるのは、どう考えても指揮者ぐらいのものだろう、と、安直に、そう思っていたんだよな」

 「でも、そうじゃなかった」

 「そう、その通り。もちろん、指揮者は要なんだろう、と思う。このことは、きっと間違ってはいない。でもね、奏者は奏者で、お互いに、お互いの息遣いを、神経を研ぎ澄まして感じ合っている、わけさ。醸し出されるハーモニーやらナンやらカンやらなどというものは、そんな簡単に生まれるものじゃなかった、ってことだな」

 息遣いを感じ合う、か~・・・、う~ん、奥が深いな。深すぎて、溺れてしまいそうだ。でも、決して、気分の悪い溺れ方ではない。 

 するとAくん、まだまだ核心はココからなんだ、と、言わんばかりに、トドメの一発を、打たんがために9回裏の最後の打席に立つ。

 「この感じだと思うんだ。お互いが、お互いの、隣の人の息遣いを、感じ合うことができなければ、ハーモニーもナニも生まれない、生まれるわけがない、というこの感じ。この感じが、この感じこそが、この、歪(イビツ)に病み始めた現代社会が、今、もっとも必要としているものなんじゃないか、ってね」

(つづく)