ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.383

はしご酒(4軒目) その百と三十四

「ワカイウチニ」

 社会的立ち位置も、その責任も、軽くて吹けば飛ぶような、そんな感じである若いうちに、本気でやりたいと思ったコトは、トコトン本気でやるべし、と、自分自身が年をとってしまった今だからこそ、余計に、心底、思うんだよな、とAくん。

 「それは私も思います。後悔のようなものが、私の中にもありますから」、と私。

 「でもな~、若いときには、なかなか、そんなふうには思えない。仮に思えたとしても、その一歩が、そう簡単には踏み出せない。なぜなんだろうな」

 「ん~・・・、人それぞれ、微妙に違うとは思いますが、無難に、無難に、って思うからなんじゃないですか、どうしても」

 そう言ったシリから、「ちょっと待ってよ」と、もう一人の私が、この私に、突然、声を掛けたものだから、驚いてしまう。

 本気でやりたいと思ったコトなら、やれたような気がする。

 本気でやりたいコトが見つかったなら、きっと、ナニがなんでも、やれたような気がする。

 と、突然、私に、声を掛けたもう一人の私が、若い頃を懐かしむように独り言(ゴ)ちる。

 その、本気でやりたいこコトが、そう易々とは見つからないというところにこそ、難産の様相を呈するそのコトの真相が、あるのかもしれない。

 「本当にやりたいコトが、見つからないんだと思います。とくにこの国は、ナンとなくボンヤリと平和だから。そんな中では、見つかるものまで見つからないような気がするのです。でも、仮に、けっして良いことではないのですが、ナニかの弾みで、そのボンヤリとした平和が、ひっくり返るようなことが起こってしまったとしたら、それまでの価値観までもがひっくり返って、無難に無難にというボンヤリとした守りの姿勢も吹っ飛んで、ナニか新しいことにチャレンジしていこう、みたいな、そんなモノが、若者たちの中に芽生えてくるかもしれない」、と、もう一人の私に背中を押されるようにして、私は、とりとめのない話を、ダラダラと喋り続けてしまう。

 するとAくんに、「いいこと言うよな~、君の熱き語りに、清き一票を投じるよ」などと言われたりしたものだから、またまたまたまた、首から上が熱くなる。(つづく)