はしご酒(4軒目) その百と二十二
「チチニマツワル ヒミツノベール」①
とにかく怖い、というイメージが80%ぐらいは占めていた父親が亡くなって、随分と経つけれど、そんな父親に、なぜかベチャッとへばりついた記憶がある、とAくん。
「そんなに怖かったのですか」
「自分が幼かったということもあるのだろうけれど、怖かったんだよな~」
「そんなに怖かったお父さんに、ベチャッとへばり付いたモノって、いったいナンなのですか」
私の頭の中では、すでに、Aくんのお父さんは、鬼か、閻魔か、ゴア(『マグマ大使』に登場する宇宙の帝王)か、ナゾー(『黄金バット』に登場する悪の科学者)かなナニかに、スッカリと完璧に姿を変えてしまっていたものだから、そんなお父さんにへばり付いていたモノが、気になって気になって仕方がなくなっていたのである。
すると、「なんだと思う?」、と、逆に尋ね返してくるAくん。そのイタズラ小僧のような表情が、妙に可愛らしくて、ちょっと吹き出しそうになりながらも、それなりに自信満々に答えてみる。
「怖ろしいほどのカタブツであったのだけれど、実は、浮気のオンパレード親父だった、とか」
間髪入れずにAくん、「ないない、それは、ない!」、と、けんもほろろ。
「じゃ、意地悪しないで、教えてくださいよ」、と、低姿勢なわりにはちょっとだけ高圧的な調子で懇願する私。
そんな私の懇願に心を揺り動かされたのか、ついにAくん、ユルリと、お父さんにまつわる秘密のベールを剥ぎ始めたのである。(つづく)