ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.344

はしご酒(4軒目) その九十五

テロワール!」①

 テロワール。テロとワルとの合体だけに、空前絶後の極悪系な言葉だと、普通は思うよね、とAくん。

 「思わないでしょ、普通は」、と、自分の思いを、躊躇することもなく、直球で投げ返してしまう私。

 「えっ、思わない?、ホントに?、最初から?、すごいな、それ」、と、大袈裟に驚いた様子のAくんに、さらに、ちょっとエラそうに、上から目線で、「ワインについて語ったりするときに、よく使われたりしているじゃないですか」、と被(カブ)せてみる。

 「う~ん、ま、そうなんだけどね」

 そのまま一気にテンションが下降してしまった(ように見えた)Aくんは、ナニを思ったのか、(それとも、ナニも思っていないからなのか)、突然、女将さんに、ワインなんておいてないよね、と尋ねたりしている。

 ワインなんて、おいているわけないでしょ、と、すかさず、声が漏れないように独りごちていると、想定外の、意外な女将さんの一言が、私の耳に届いたものだから、驚いてしまう。

 「それが、あるんですよ、生タイプの濁りが」

 生タイプの濁りか~、どこのワインだろう、おそらく、国産ワインなんだろうな、などと、こっそりと思ったりしていると、Aくんもまた、驚きと妙な納得とが合わさったような表情を浮かべつつ、「へ~、言ってみるもんだな」と、宣い、そして、少し残っていた沖縄のぬる燗を、グビ~リと呑み干す。(つづく)