ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.598

はしご酒(Aくんのアトリエ) その三十九

「アルトキ~、ナイトキ~」③

 そんな私にAくんは、ユルリと、遠い昔を懐かしく振り返るように語り始める。

 「随分と昔のことだから、その本に限らず、洋書って、求めるモノが上手い具合にスコンとソコにあったときはいいんだけれど、運悪く、ソコになかったりすると、ソコからがタイヘンだったりするわけよ。そう簡単には手に入らない。場合によっては、手元に届くまでに数ヶ月も待たないといけなかったりする」

 「ゲッ、す、数ヶ月も、ですか」、と、私はそんなには待てないな感を、思いっ切り臭わせながら言い放つ。

 「でもね、その、待つ、が、なぜか良かったりするんだよな~」

 Aくんのその言葉の意味を、俄には理解することができなかった私は、「ある、と、ない、とでは、天国、と、地獄。にもかかわらず、それが良かったりするのですか」、と、さらに力を込めて言い放ってみせる。

 するとAくん、微塵もたじろぐことなく、こう言い返してくる。

 「ソコに、あるとき、ないとき、に、振り回され、その度に、一喜一憂などせず、それらとは別の、ソコにもう一つある、ためる、ためるとき、に、心を委(ユダ)ねる、というか、むしろそのことを楽しむ、というか、とにかく、そういうコトも、ある、と、思っているわけよ、僕は」

 「た、ためるとき、ですか」

 「そう、ためるとき。ただなんとなく、ソコにないことを憂うのではなくて、そのときは、熱き思いであれ、エナジーであれ、パワーであれ、この身体の中に、グググググッとためる、ためるとき、なんだと思うこともまた、大切なコトだということだ」

 

 わっ。

 

 私の心臓が秒速で小さく震えた。

 あの、ナニやら引っ掛かったままであったナニがナンであったのか、が、その瞬間、ようやく、わかったような、そして、その、秒速の小さな震えとともに、遠くから、あたかも山彦のように繰り返し繰り返し聞こえてきたような、そんな気が、したのである。

 

 あるとき~、ないとき~、ためるとき~

 あるとき~、ないとき~、ためるとき~

 あるとき~、ないとき~、ためるとき~

 

(つづく)