ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.339

はしご酒(4軒目) その九十

「ヅケヅケ!」①

 奈良県という、なかなか興味深い地方都市がある。

 かつての由緒正しき平城の都である奈良県に対して、地方都市などと宣ってしまうと、奈良県民に、「無礼者~!」などと叱られてしまいそうだけれど、もちろん、奥ゆかしい奈良県民は、そんなことで怒りをあらわにすることはない。

 母がまだ健在であったとき、なにかとバタバタと慌ただしい年の暮れ(にもかかわらず)、毎年、ホテルライフを満喫することを、親族の決めごととしていた。そのホテルの中の一つが、(野生の鹿たちでも有名な)奈良公園のほとりに建つ、ちょっとした城郭のような老舗ホテル。さすがにバリアフリーというわけにはいかないが、そのレトロなクラシック感は、「これぞ、古(イニシエ)の奈良!」と、言わんばかりの気持ちの良さであった。

 残念ながら、そのときのディナーのことは、ほとんど覚えていないのだけれど、翌朝のブレックファーストに出された奈良漬けことだけは、忘れられない。それほどのクオリティであったのである。

 その、洗練された爽やかさのかたまりのような、究極の奈良漬けの記憶とともに、その日のことが懐かしく思い出される。(つづく)