はしご酒(4軒目) その四十三
「オオサカジメ ノ ススメ」
国政選挙やらなんやらで、早々と当選確実の報を受けたそこかしこの選挙事務所から、「バンザイ、バンザイ」という景気のいい大合唱が聞こえてくる。TVの開票速報番組あたりで、よく目にする(耳にする)光景である。
そんなごく当たり前の光景に、大阪弁で言うところの「イチャモン」をつけたのが、誰あろう、天下御免のAくん、なのである。
「なにが気に入らないんですか」、と私。
「気に入らない、ってほどではないけれど、当選が決まったその時点で、バンザイ、は、ないんじゃないか、って思うわけよ」、とAくん。
あらためてそう言われると、なるほど、ダレに対して、ナニに対して、の、バンザイなのか、少しナゾめいてはいる。
つまり、当選がゴールではないということ。どちらかというと、むしろ、スタートなのではないか、だからこそ、浮かれている場合ではない、というAくんのその指摘は、あながち間違いでもないような、そんな気がする。
「バンザイそのものが、あまり好きじゃないってこともあるが、せめて、ナニかを成し遂げてから、に、してほしい」、と切望するAくんには、ナニやら名案があるらしい。
「スタート、スタートだからこそ、気持ちを引き締める、その、締める、という意味で、あの、うちま~しょ、パンパン、もうひとつせ~、パンパン、いおうてさんど、パパンパン、の、大阪締め、というヤツが、なんとなく、いいんじゃないかな~、って思うんだけれど、君は、どう思う?」
大阪締めのなんたるかは、全くもって私にはわからない。でも、その響き、その感触、その空気感、から、悪いヤツじゃないな、ってことだけは、充分に伝わってくる。
「とてもいいと思います、賛成に一票!」
すると、女将さんも、「私も、賛成に一票!」
さらに、支払いを済まそうとしていた常連さんまでもが、「僕も」、と、貴重な清き一票を投じてくれたものだから、すっかり奇妙な連帯感みたいなものに包まれた気がして、少しホワンとした気持ちになる。(つづく)