ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.250

はしご酒(4軒目) その壱

「シバイゴヤ ト デンパケイ」①

 暗くてハッキリとはわからないのだけれど、ちょっと妙な建物の前を通りかかる。

 こんなのあったかな、なんだろう、この建物は。

 100年とまでは言わないが、50年以上は優に経っているだろうその古びた建物から、なにかしら不思議な気配が漂ってくる、ような気がした。

 そういえば、以前、旅先で、恒例の朝散歩に興じていたときに、ある古びた建物から同じような気配を感じたことがある。たしかその建物は、古き良き日、地元で人気の芝居小屋であったと記憶する。同じように朝散歩に興じていた地元のおじさんに、そう教えてもらったのである。あらためてその前に立ち、目を閉じて耳を澄ますと、当時の人々の声が、ざわめきが、賑わいが、リアルに聞こえてきそうな、そんな気がしたものだから、不思議だな~、と、そのときそう思ったことを懐かしく思い出す。

 ひょっとすると、そうした不思議な気配を漂わす、眼前のこの古びた建物も、昔はこの地で人気の芝居小屋であったのかもしれない。しかしながら、ジワジワとTVやらなんやらに押されて、人気も低迷、やがて、人々の記憶からも消えていったのだろう、などと、勝手に想像したりする。幸い、取り壊されることだけは免れたようだが、建物に宿っていた魂に、いま一度触れてみたいという思いが叶えられることは、残念ながら、なさそうだ。

 それでも、なにかが漂っている、なにかを感じる、そんなこんななことをあれこれ考えたりしているうちに、突然、その建物の中からガタゴトと音がし始めたので、これ以上ないというぐらい、驚いてしまう。

 そして、その錆びついた鉄製の大きなドアが、恐怖を煽るようにギギギギキ~っと唸りながら開いたときには、もう腰が抜ける一歩(どころか、半歩)手前ぐらいの、危機一髪な私であったのである。(つづく)