はしご酒(4軒目) その弐
「シバイゴヤ ト デンパケイ」②
さらに、静寂と暗闇(というほどの静寂でも暗闇でもなかったのだろうけれど、そのときは、少なくともそう感じてしまうほどの精神状態であったということだ)の中からヌルッとなにかが現れ、私の腰は、完全に抜けてしまう。
そのわりには、一歩も二歩も三歩も後ずさりすることができたわけだから、実際には腰など抜けてはいないのだろうけれど、嘘偽りなく、そのとき私は、完全に腰が抜けたと思ったのである。
「お~、こんなところで会うとはな~」
後ずさりした私に向かって、あの懐かしい声が、周辺の空気の温度を少し上げながら飛んできた。
あまりの懐かしさに心地よい酔いも手伝って、ジュワッと目頭が熱くなるのを覚えたにもかかわらず、私は、素直に「会いたかったです」と言えばいいものを、おもわず、「こんなところでなにをしているんですか」、と、宣ってしまう。そんななんともかんともな言葉のキャッチボールを展開しては、そのシリからもソバからも後悔する、という私にAくんは、笑顔でこう答えた。
「ちょっと一杯、どう?」
(つづく)