はしご酒(2軒目) その六十三
「タノマレル ニ ノマレル」④
結局、「ノマレてしまう」も「たノマレてしまう」も、両者の見極める力の、判断力の、その足りなさのため。己を知らずして、相手を知らずして、ナニが旨い酒だ、頼み事だ、頼まれ事だ、と、いうことか。
しかしながら、ソレだけでは、まだ、決め手に欠ける。決定打とは言えない。
なぜ、断りたいけれど断れない?
なぜ、強引に頼まれてしまう?
なぜ、仕方なしに引き受ける?
謎は謎を呼び、ますます厄介な迷宮に入り込んでしまいそうだ。
するとOくん、「双方のパワーバランスみたいなんが、完全に崩れてしもてる、っちゅうことなんとちゃうんかな~」、と、ボソリと。
パワーバランス?
「両者の、それぞれの見極める力のバランス、ということですか」
「ちゃう、ちゃう。圧倒的な立場の違い、からの、圧倒的なチカラの違いや。せやから、一つ間違えば、たとえば、職場でのエゲツないパワハラに、みたいなことにもなってまう」
そ、そうだ、そうだった。大事なことを忘れていた。
そもそも「断れない」のだ。「頼まれる」ことが、仕事であり、職務だからだ。もちろんプロなのだから、そんな頼まれ事、切れ味鋭くチャチャッとこなす、に、こしたことはないのだけれど、そうは問屋が卸さない。皆が皆、そんな風にこなせることなど、まずあり得ない。頼む側にとっての、実に都合のいい幻想とさえ思える。
そう、強者の幻想。
そんな身勝手な幻想の中で、少々スピード感やらナンやらに難ありの不器用で生マジメな一般ピーポーたちは、いったいナニをココロの糧(カテ)として、拠り所として、やっていけばいいというのだろう。たいていは、そんな糧も拠り所も見つけれないままズルズルと、心が押し潰されそうになっていく。そして、「命」にまで直結してしまうのだ。コレは、恐ろしいコトである。
ココで、国内外で高く評価されている、ある、老練な伝統工芸の匠の一言。が、ふと。
「コレしかできません、コレ以外は、なにもできません」
たとえば、その匠が、その道に進んでいなかったらとしたら、どうだったろう。ひょっとしたら、職場で、使いものにならない厄介者扱いされていたかもしれない。
仕事などというものは、こういうコトなのかもしれない。
今、あなたが、たまたま取り組んでいるその仕事が、たまたま、あなたに合っていなくて、向いていなくて、だから、うまくできない、うまくいかない、だけのことなのだ。
全てが、たまたま。そう、たまたまなのである。
もちろん、仕事なのだから、自分なりにベストは尽くさなければならない。プロはプロとしての義務がある。が、うまくいかないからといって、自暴自棄にも、絶望的にも、なる必要など微塵もない。
少なくとも私は、そう思う。そう思って、生きている。
(つづく)