はしご酒(2軒目) その四十三
「エイキヲヤシナウ カンゼンキュウヨウ」
苦しい時の神頼み、ならぬ、「気合い」頼み、まだまだ幅を利かせている。
私も、全否定するつもりはない。
気合いがもつ一種独特なスピリチュアルパワーに、時折、期待してしまうことがあるし、そのパワーで(勘違いかもしれないが)乗り切れたな、と、思うこともある。
しかしながら、心身ともに、トコトン、ダメージを受けてしまった場合の、その「気合い」頼み、はたして、本当にチカラを発揮してくれるのか。気合いには申し訳ないのだけれど、どうも、ちょっと、疑わしい。
「新聞のコラムかなんかで読んだんやけど」
ん?
「台風で、トコトンなダメージを受けてしもたソメイヨシノ、その翌年は、できるだけ花を咲かさへんようにするらしいで」
そのOくんの「ソメイヨシノは完全休養」噺に、お兄さん、「咲かさない?、台風のダメージで咲かなかっただけなんじゃないんですか」、と、間髪入れずに突っ込みを入れる。
「たしか、無理せんとこ~、と、その次の年に向けて、じっくりチカラをためて、英気を養う、って、書いてあったと思うんやけどな~」、と、自信が、少々、下降線をたどる、Oくん。
「無理せんとこ~、ですか」、と、ジンワリ、つれない、お兄さん。もちろん、納得は、していないようだ。
ソメイヨシノは完全休養、か~。
Oくんが、わざわざ、そんな嘘をついているとも思えないし、ひょっとすると、事実、なのかも。
「仮にソレが事実であるとしたら、脳があるわけでもないのに、なんという冷静な判断、緻密な計画性、しかも、気持ちいいほどの潔さ、なのでしょう。その潔さは、見習わないといけないかもしれませんね。なんといっても、この、ナゾがナゾ呼ぶ人間社会で、その潔さを実現することは至難の技なわけですから」
「むしろ、その脳が邪魔するんかも」、とOくん。
えっ?
「考えてしまいますからね、脳は、余計なことまで」、とお兄さん。
ん~。
たしかに、脳は、余計なコトまで考えてしまいがち、か、な。
ココはやはり、不覚にも、トコトンなダメージを受けてしまった時には、その、ソメイヨシノの潔さを見習い、余計なコトを考えがちな脳には、この際、おとなしくしておいてもらったほうがいいのかもしれない。
無理をせず、完全休養で、明日のための英気を養う!
もう、コレしかないような気が、ズンズンとしてきた。
いや、あえて、ココは、コレでないとダメだ、と、自分に言い聞かせておこう。
トコトン、完全休養。
コレでないと、絶対に、ダメ!
(つづく)