はしご酒(4軒目) その十九
「タカダワタル ノ ススメ」
高田渡の♪コーヒーブルースが好きなんだな~、と、サツマイモとエビイモの炊いたんを実に旨そうに頬張りながら語るAくん。
たかだわたる?
コーヒーブルース?
彼の得意技である唐突感だけでは済まされないほどの、隅から隅までオールナゾがナゾ呼ぶナゾナゾワールド、に、少々面喰らう。
「たかだわたるって誰なんですか」
「56才の若さで人生の幕を下ろした、孤高のフォークシンガー、高田渡」
「ハードロックではなくて、フォークなんですか」
「言っておくけど、あの頃の魂そのまんまのフォークは、そのあたりのハードロックなんかより、ウンとハードロック」
「そうなんですか」
「そう」
「で、コーヒーブルースなんですか」
ですかですか、と、バカみたいな質問ばかりの私にAくんは、そう、孤高のフォークシンガー、高田渡のコーヒーブルース、と、誇らしげにダメを押す。
「なるほど、つまり、きっと、たとえばコーヒー豆のフェアトレードについて世界に訴える、みたいな、壮大なテーマを扱う、そんな社会派の魂のフォークソング、なんですね」
ですかですかではあまりに情けないと、それなりの確信をもって述べてはみたものの、そんな私の確信を、軽く否定したAくんは、そこが高田渡のスゴいところで、京都三条堺町のイノダってコーヒー屋のあの娘に会いに行かなくちゃ、という、トコトン気持ち良すぎるぐらいベチャッとした名曲なんだ、と、もうほとんどワケがわからない。
ワケがわからないのだけれど、ここ数年の間で、これほど聴いてみたくなった音楽、というのも、他にはなかったかもしれない。(つづく)